
農地の脇に置かれた広さ3畳のわなは、鉄網で囲った手作りだ。イノシシは体長1メートルあり、外に逃れようと鉄網に突進し始めた。やりを手に対峙(たいじ)した安達さんは、興奮させないよう帽子で視線を隠し、ゆっくり近づいていった。
「伯耆富士」の二つ名を持つ大山(標高1929メートル)の裾野に広がる町は、米や梨、ブロッコリーなど農業が盛んだ。一方で「イノシシの黄金地帯」と呼ばれるほどにイノシシは多く、作物の被害が深刻化している。

新型コロナ下の20年、外食需要を失った同振興会は、町の学校給食用にイノシシ肉100キロを無償提供した。ジビエ料理は子どもたちに人気となり、定期的な無償提供を続ける。
イノシシは鉄網を挟んで安達さんに飛びかかった。刹那、光る刃先が首筋の動脈を突いた。刺創から血液が流れ続け、11分後、イノシシは息絶えた。心臓を刺さないのは、動かし続けることで放血するため。「おいしい食肉」にする基本だ。

同校は調理場併設の食堂で全校生徒と教員が共に給食を食べる。「牛や豚と同じようにイノシシが大好き」。1年の山田理華子さん(12)が笑うと、安達さんも笑顔になった。
訂正 中山理華子さんとあったのは山田理華子さんの誤りでした。