
戦後復興、経済成長と共に
“応援価格”70円

「今、生きている人を応援したい」。行方不明の家族を捜す客も店を訪れた時代、セットを70円で提供した。3代目店主の朋子さん(44)は「当時は破格の値段。採算度外視で続けた」と話した。
一方、繊維業が盛んな岐阜県や愛知県では、戦後の経済成長を背景にモーニングが広がっていった。
地元産卵売りに
愛知県一宮市の一宮商工会議所によると、同市は50年代、機織り機をガチャンと鳴らすと万円単位でもうかる「ガチャマン景気」に沸いた。機織り機は動かすと大きな音が鳴る。商談や休憩の場として静かな喫茶店が繁盛した。
発祥店は不明だが、トーストやゆで卵を無料でサービスする動きも広がった。養鶏が盛んな同県で客をもてなす食材として鶏卵がぴったりだったという。
73年に同市で開業した「イーグル」店主の鷲津尚宏さん(81)は「20年前に市産の卵を使ったハムエッグなどをメニューに追加した。トースト、ゆで卵が定番のモーニングは他店との競争で多様化している」と話した。
同市近隣の名古屋市では、喫茶店チェーン「コメダ珈琲店」が開業当初の68年からモーニングを実施。現在は47都道府県に1000店以上を展開し、モーニングは全国に広がった。
農家の胃袋支え

同店の売りはボリューム満点の朝食。コロッケなどを盛り、朝食と昼食を兼ねた「ブランチ」を提供し始めたのは30年ほど前だ。
同市は、甘くて歯応えのある柿「次郎」の産地。早朝の力仕事を終えた農家の「たくさん食べたい」需要に応えるため、朝食メニューを充実させた。間宮さんは「宅地開発で農家は減ったが、朝食をしっかり食べる文化が根付いた」と語った。
<取材後記>
最寄駅前に今年、コメダ珈琲店がオープンした。休日の朝、数年ぶりに同店に入り、コーヒーを注文。店員に「セットはどれにしますか」と言われ、無料でトーストが付くのを思い出した。「こんな太っ腹なサービス、どこで始まったのだろう」と思い、同店が生まれた愛知県で取材した。
一宮市の「イーグル」のドリンク代+330円で頼めるスクランブルエッグは濃厚でまろやかな味わい。豊橋市の「日付変更線180°E」のドリンク代+300円のブランチはトーストにコロッケ、ナポリタンと盛りだくさんで腹が膨れた。
農水省調査によると、20、30代の2割弱が朝食を「ほとんど食べない」。朝の時間帯の若者への魅力発信が、一層の需要拡大につながるのではないか。(佐野太一)
