記念館のシンボルは、かつて4000個の実をつけた国内最大級の梨の巨木だ。品種は県主力の「二十世紀」。倉吉市の農家が所有していた樹齢74年の木を掘り起こし、樹脂でコーティングして展示している。直径20メートルの範囲に枝が広がる姿は圧巻で、一推しの撮影スポットだ。
一番人気は、年間を通じて常時3品種の梨の食べ比べができる試食コーナー。佐藤哲也館長は「しゃりっとした食感、風味、甘さなど、品種ごとの違いを感じてほしい」と話す。
他に、国内外70品種の梨の実の模型を並べた展示や、県内の梨の栽培や歴史を学べるコーナーも見どころだ。

牛舎で実際に触れ合えるのも魅力。6~10月は、隣接するスキー場のゲレンデに放牧する但馬牛をリフトで上空から眺められる。
牛に特化した博物館は、同博物館と奥州市牛の博物館(岩手県奥州市)の二つだけ。酪農では、乳業メーカーなどが運営する博物館が各地にある。
北海道士幌町には、JA士幌町が運営する「農協記念館」があり、JAの歴史や管内農業について紹介する。JAが運営するのは全国でも珍しい。
<取材後記>
文部科学省によると、国内にある博物館の数は5700を超える。ジャンルは科学や歴史、美術などさまざま。博物館がこれほど多い国は珍しく、日本は“博物館大国”とも呼ばれている。
今回、農作物や畜産・酪農、農機など、農業の中でもさらにテーマを絞った特色ある博物館を紹介した。本記事では触れなかったが、国内には他にも、大学や行政が運営する、農業全般を扱う総合博物館も数多くある。
いかに産地が築かれたのか、どんな人たちが貢献したのか──。多くの農業の博物館では、農家の苦労や努力が紹介されている。先祖をしのぶ盆のこの時期。博物館を訪れ、日本の農業の礎を築いた先人たちに思いをはせてはどうだろうか。
(北坂公紀)
