日本で最も食べられている果実・バナナ。ニーズが根強いバナナで国産シェア拡大は可能か。全都道府県を対象に調べると、意外にも41都道府県で栽培実績が確認できた。輸入品に比べて高価なものが多い。気象条件による生育の不安定化や、燃油価格高騰など生産拡大には課題も多い。
国内で流通するバナナのほぼ100%がフィリピン産などの輸入品だ。財務省の貿易統計によると2023年の輸入量は約103万トンで、果実の輸入量全体の約6割を占める。
ただ近年は、産地の天候不順や円安による他国との買い負けなどで、輸入リスクはじわり高まっている。国産の安定供給はできるのか。全都道府県でのバナナの栽培実績を調べた。
インターネットで「〇〇産バナナ」と検索をかけ、検索結果に表示された農園のホームページや報道などを参考に栽培実績の有無を確認。ネットの情報では不確かな事例は、農園や関係機関に電話取材をした。
調査の結果、41都道府県で栽培実績があった。熱帯果実のため温暖な気候の沖縄や九州、四国で経営体数が多かったが、北海道や東北などでも確認できた。霜害や台風被害防止と高品質を目指し、大半がハウスで冬季に夜間加温をしている。
耐寒性苗 全国へ
国産バナナの産地拡大の背景には、耐寒性を持つ苗の普及がある。岡山県の農業法人・D&Tファームは、「凍結解凍覚醒法」という技術で処理して耐寒性を持たせた苗を、15年から販売。北海道から鹿児島まで苗を販売した実績があり、現在も約30件の取引先を持つ。取引先は、希少性に、新規性とビジネスチャンスを感じ、農業に新規参入する異業種の企業が多いという。
宮崎県川南町で18年から栽培するネクストファームも、親会社が土木企業。現在は30アールで農薬不使用で栽培し、「NEXT716」として販売する。自社の電子商取引(EC)サイトや関東、関西の大都市圏の百貨店などが主な販路。百貨店では1本約1000円などと外国産に比べて高価格だが「食の安全・安心を求める人からニーズが根強い」(同社)。
燃油高騰 撤退も
燃油価格高騰などを背景に、栽培から撤退する事例も出てきている。東北で生産・出荷していた産地関係者によると、まだ園地はあるものの、「燃油価格の高騰で採算が合わなくなってしまい、23年の冬からハウスの加温をやめた」と話す。現在は撤退の方向性で話が進んでいるという。
中部地方でも経費高騰を理由に「今回の収穫を最後に生産をやめる」とする経営体があった。生産意欲はあるものの「温度や湿度、照度の管理が難しく、実がついていない」(四国の生産者)事例もあった。
国産の主産地・沖縄県でも課題がある。JAおきなわは露地栽培が主体のため、「台風などの強風の影響を受けやすく、生産量は不安定」と話す。使える農薬が限られていることもあり「県外への長期輸送では傷みの懸念があるため、大半が県内消費となっている」(JA)という。
<取材後記>
バナナは栄養価が高く、朝食など日常使いのニーズが根強い。総務省の家計調査では、23年の1世帯(2人以上)当たりの年間支出金額と購入数量は、生鮮果実の中で1位だ。
この取材を機に私も、沖縄産を初めて買って食べてみた。外国産に比べて甘さが濃く、もっちりとした食感でおいしかった。9月に入っても全国各地で猛暑日が続く近年。「日本でおいしいバナナを作れる日も近いのでは」と思っていたが、現実はバナナほど甘くない。
耐寒性の苗を販売するD&Tファームは、栽培の難しさという課題の解決に向け、購入者を対象に無償で栽培実習を始めたという。国産がスーパーなどで手軽に買える時代が来ることを願う。
(永井陵)
