現代の車をクラシックな外観に改造する「レトロカスタム」のブームが、農家の相棒となる軽トラックにも到来している。メーカー各社がモデルを集約してデザインが画一化する中、クラシックな見た目の軽トラは、農作業への気分を上げるツールとして人気が高まる。
自ら部品交換
金沢市の約13アールで野菜を栽培し、Aコープなどに出荷する西村健太さん(41)は、愛車のスズキ「キャリイ」を1969~88年に製造されたマツダ「ポーターキャブ」顔に改造するキット「Cab」を購入した。自動車整備が本業の西村さんは、キットを自ら取り付ける。
「ポーターキャブ」は、マツダが独自に開発した最後の軽トラで、ヘッドライト周りの部品が丸いことから「ガチャピン」の愛称で親しまれる。クーラーは標準装備されず、車体前部中央の小窓を倒して走ると車内に空気が取り込める。

軽トラの更新を考えていた西村さんは、他人とは違うものに乗りたくて、初めはジープ風を探していた。元となる「キャリイ」に装着可能なキットをネットで探し、ポーターキャブ顔に出合った。「ポーターキャブはレトロなデザインで人気だが、希少価値が高くなった。顔部分だけ改造した軽トラなら気兼ねなく使えるし、農作業へ向かう道も楽しくなりそう」と満足する。
世代超え人気
「Cab」は工業デザインを手がけるムーク(埼玉県)が2022年から25万8500円で販売する。繊維強化プラスチック(FRP)製でヘッドライトやバンパーなどが一体成型。キットを付けたまま車検を更新できる。
同社の廣瀬睦夫さん(73)は「兼業農家の女性から“軽トラで買い物に出かけたくない”という声を聞いたのが、開発のきっかけ」と振り返る。「これまで60台ほど販売した。昔を思い出して購入する年配客が多いが、若者も増えている」と話す。

往年のホンダの軽自動車風にするキットも注目を集める。モデスト(神奈川県)は05年、1970年代に製造されたライトバン「ライフステップバン」の顔を後継に当たる「バモス」や「N―VAN」「アクティ」に取り付けるキットを販売。前部は31万円(税別)、後部は5万8000円(同)からだ。現在、注文すると納品まで1年待つ人気ぶりだ。
同社の田中伸幸代表は「若手を中心に新規就農者の購入が目立つ。おしゃれに改造した軽トラは、農作業用だけでなく普段使いにも使えるから、今後も乗りたい人が増えるだろう」と語る。
<取材後記>
「レトロカスタム」は、一部の架装業者が好事家向けに以前から手がけてきた。ところがコロナ下のアウトドアブームで、1次産業に従事しない人が、商用車をキャンプなどに購入することが増えたのに伴い、「ハイエース」を30~40年前の顔にするなどの改造が人気を集め始めた。
こうした流れが「本職」の農家の関心も集めている。マルシェで販売する時の広告塔として使う農家もいれば、元となった車の現役時代を知らず古いと思わない若い世代が、「オートマチックでレトロに乗れる」と歓迎する。
こんな軽トラが相棒なら、農作業や買い物へ向かう日常に潤いを与え、つらいことがあっても「明日も頑張ってみよう」と前向きになれる気がする。
(木村泰之)
