重ねた工夫、苦労 成長の糧
“農業高校の甲子園”とも称される日本学校農業クラブ全国大会が23、24の両日、盛岡市を中心に岩手県内で開かれる。農高生や教職員ら約5000人が参加、全国9ブロックから選ばれた代表がプロジェクト発表会や競技会などで研究成果や技術を競う。43年ぶりの岩手大会開催に向けて準備を進める実行委員会委員長の吉田真乃加さん(岩手県立盛岡農高3年)や、同校の菊池郁聡校長に大会の魅力や見どころを聞いた。
農・官・民巻き込み
「地元農家や行政機関、企業を巻き込んでゴールを目指す姿は75回の歴史で培われてきた特徴だ」。農業クラブ全国大会の魅力について、菊池校長はこう語る。
農業の生産性向上や地域資源の活用などを探るプロジェクト発表会は、生徒自らテーマを設定し、栽培や商品開発などに取り組み、その成果を発表する。
同校では、県ブランド米「銀河のしずく」の栽培に挑んだが、玄米たんぱく質含有率が届かなかった。翌年以降の栽培で原因究明して名誉挽回。菊池校長は「うまくいくプロジェクトばかりではない。失敗が生徒を成長させる」と強調する。
若手時代、意見発表に臨む生徒を指導したのも思い出深いという。遠野市の畜産農家の子息で「民宿を開きたい」と夢を語った。同市はその後、いわゆる「どぶろく特区」に認定され、その農家も民宿を開業。「意見発表が周囲の考えを変えた」と振り返る。
プロジェクト発表会は、農高生以外も見学できる。菊池校長は「並大抵の苦労では全国大会にはたどり着けない。生徒の工夫や苦労を感じ取って、出場生徒全てに拍手を送ってほしい」と語る。
記念品もこだわり
全国各地から集まる農高生に手渡される記念品も注目ポイントだ。毎年、開催県の農高生らが地元の特色を生かした品を準備する。楽しい思い出を持ち帰ってほしいという「おもてなし」の心だ。

全国大会ではプロジェクト発表会の他、平板測量や農業鑑定、家畜審査の競技会なども開かれる。今大会では、発表会や競技会ごとに異なる記念品を用意する予定。羊毛フェルトを加工した乳牛の小物やナンブアカマツで作ったペン立てなど県内の農高が地域色豊かに競作する。
実行委は、インスタグラムの公式アカウントも開設。コンテンツを毎日投稿し、機運を盛り上げる。吉田さんは「岩手県は、東日本大震災で全国から支援を受けた。その恩返しの思いも込めてもてなしたい」と意気込む。
<取材後記>
日本学校農業クラブ東北連盟大会の取材でプロジェクト活動の記録簿を見る機会があった。1冊の厚さは10センチを優に超える力作ばかり。手書きで考えをつづり、データを積み重ねる。農業の課題解決に向けて真剣に向き合う農高生の姿が垣間見えた。
1989年度に560万人を超えた高校在学者は現在290万人まで減少した。少子化の波は農業高校も無縁ではなく、統廃合や総合学科への移行が相次ぐ。東北の農高関係者からも「生徒が減れば、教職員も減らされる」と、農業教育の縮小を憂う声が出る。
一方で文部科学省は、自ら考え課題解決に動ける資質を育む「探究学習」の推進に旗を振る。その考えを先取したとも言える農業クラブの取り組みが再評価されることを願っている。
(山口圭一)
