〝元絶つ〟 河川で一進一退攻防
同雑草は数センチの茎の断片からでも再生する。川岸などに生えた草の断片が、河川や用水路など通じて田やその畦畔(けいはん)に侵入して繁茂し、水路を詰まらせたり、コンバインにからまって作業を遅らせたりする。国内では1989年に兵庫県で初確認され、現在、福島県以西の26都府県に広がった。
「終わり見えない」
茨城県の新利根川では、2011年に同雑草が発見された。約30キロある川の全域に、同雑草の群落が島のように浮かぶ。川幅が狭い箇所では、両岸の群落がくっついている場所もある。新利根川の下流、稲敷市で水稲115ヘクタールを栽培する山口貴広さん(40)は、3年ほど前に同雑草に気付いた。現在、5%ほどの田やその畦畔には侵入しているという。断片の侵入を防ぐため、全水田の給水口にネットを付けている他、同雑草が侵入した田では、刈り払い機を使わず除草剤だけで除去している。刈り払い機だと同雑草の断片が散らばり、さらに広げてしまう懸念があるためだ。
山口さんは「“元を断つ”ことをせず、農地で対処してほしいというのは少し違うのではないか」とこぼす。同雑草の流入元になっている河川流域の除草が進まなければ、農地での除草も終わりが見えないとの訴えだ。
60人出動しても…
“元を断つ”取り組みはどうなっているのか。茨城県は昨年11月、新利根川の4カ所で同雑草の群落を取り除いた。県や市、土地改良区の職員ら60人が半日かけて、バケツリレーのように2トントラック7台分を集めた。それでも、取り除けたのは「すずめの涙ほど」(県の担当者)という。県では17年にも、新利根川全域で、乾燥重量で250トンを取り除いた。予算は7000万円ほどで、半年かかったが、翌年には、群落がいくつも発生するなど元通りだったという。県の担当者は「侵入してしまった以上、できることを粛々とやるしかない」と話す。
“元を断つ”ための新たな試みもある。兵庫県を拠点に同雑草を調査する丸井英幹氏は、遮光率100%のシートの活用を研究する。シートで覆えば約3年で同雑草は枯れ、土に還るという。今後、静岡県での実証を予定する。
<取材後記>
日本植物調節剤研究協会が22年に行った調査によると、畦畔の草刈りの年間回数は、25年前とほぼ変わっていないという。小さな断片からでも再生する同雑草は、刈り払い機の利用は禁物。「名前が長くて覚えられん」(80代の農家)といった声もある中、本人も知らない間に、刈り払い機で断片を広げている可能性はないか、不安になった。取材した関係者からは、メディアで同雑草が取り上げられる機会も増えるなどして「認知度は高まってきた」との声を聞いた。同雑草の特徴や除草の際の注意点をいかに分かりやすく啓発するか、国や県をはじめ関係者一体で取り組むべき課題だ。私自身も、ナガエツルノゲイトウをはじめとする雑草問題を積極的に報じていきたい。
(後藤真唯子)