現物準備の手間かからず
熟度や形状など農産物の出荷規格を確認する目合わせ会。写真だと分かりづらい一方、本物だと見本の準備に手間がかかる。こうした課題に対応するため、出荷規格の見本に食品サンプルを使う産地がある。食品サンプルといえば、飲食店の店頭に飾られているイメージだが、農業分野ではどう活用されているのか。
病害の確認に重宝
新潟県三条市・加茂市・田上町で、梨やブドウ、桃を育てる農家300人ほどが参加する天果糖逸(てんかとういつ)出荷販売協議会。そのうち、約150人が西洋梨の「ル レクチエ」を出荷しており、2022年から目合わせ会で食品サンプルを使っている。
目合わせ会を担当するJAえちご中越の矢川篤史主任によると、以前は目合わせ会の前日に見本を収穫していたが、出荷規格の説明に適した見本がなかなか見つからず苦労したという。また、腐ってしまうと後日に出荷規格を確認することもできない。そこで「(目合わせ会後も)形が残るなら」と、食品サンプルを導入した。

形状をリアルに再現できる点が食品サンプルの特徴だ。日本梨に比べて、形が複雑な西洋梨にも向く。また、本物で見本を用意することが難しい病害の説明にも食品サンプルは重宝する。ただ、表面の色つきは本物と差があり、熟度の確認には今でも本物を使っているという。
農産物の出荷規格は市場との話し合いなどを踏まえて決める。そのため、市場に出荷規格の見直しを説明する際にも食品サンプルが役立っている。
見本調達コスト減
産地が南北にまたがる品目でも食品サンプルを取り入れる動きがある。
JA全農さいたまは来年から、カボチャの目合わせ会に食品サンプルを使う予定だ。カボチャは九州から東北までの産地リレーで供給をつなぐことから、これまでは埼玉県に先駆けて収穫が始まる長崎県産のカボチャを20玉ほど送ってもらい、目合わせ会をしていた。

食品サンプルを導入した理由として、担当者は「写真だと出荷規格が分かりづらい」という意見が多くあったことを挙げる。また、カボチャを取り寄せる送料の削減につながる他、目合わせ会で使ったカボチャを処理する手間も省ける利点があるという。今後、栽培提案でも使うことを想定している。
導入コストを抑える工夫もしている。例えば、カボチャの半分ですれ傷、もう半分で食害を表現すれば、1玉を2通りの見本として使うことが可能だ。
<取材後記>
食品サンプルには不思議な魅力がある。一見、本物の料理と何ら変わらず、食欲をそそられてしまうが、手に取ってみるとズシッと重く、人工物だということを実感する。そのギャップに引かれるのかもしれない。
そんな食品サンプルを農業分野で使っている事例があると聞き、取材を始めた。天果糖逸出荷販売協議会では、ブドウの摘粒作業を説明する際にも食品サンプルを活用しているという。農業分野の食品サンプルは、出荷業務や農作業の効率化に貢献しているようだ。
おいしそうな料理を再現できるなら、形が複雑な農産物も再現できる。視点を変えることで、農業現場の課題解決につながる。食品サンプルの取材を通じて、それを実感した。
(岸康佑)
