発想変えて食べ方も提案
地域の気候や文化に合わせて生産されてきた伝統野菜。地域ブランドを保護する農水省の「地理的表示(GI)保護制度」にも多く名を連ねるなど、注目が集まる。地域活性化へ存在感が高まる一方、担い手の減少や販路に悩む産地は多い。継承には何が必要なのかを追った。
そもそも伝統野菜とは何か。農水省も「定義付けはしていない」(園芸作物課)中で、伝統野菜に詳しい山形大学の江頭宏昌教授は「ある地域で栽培者が自家採種をしながら、世代を超えて栽培利用を続けてきた作物」とポイントを挙げる。地域農業や社会に根差す「生きた文化財」とも言える伝統野菜だが、継承への課題は多い。
栽培面では、環境変化への対応が課題。伝統野菜は100年も前の古い品種や、栽培する農家が10人未満の例も少なくない。気候や農地周辺の環境変化に合わせた栽培や採種の技術の他、「ファンづくりが大切。継承の意義を考え共有することも欠かせない」(江頭教授)。
漬物向けがメイン

広島の伝統野菜「広島菜」は、若手農家やJAが協力し、長い歴史を紡いできた。多くが漬物「広島菜漬」に加工され、「野沢菜漬」「高菜漬」と共に「日本三大菜漬」とされる。
伝統野菜の継承は、少量生産の農産物の生産や加工を安定させ、需要をどう確保するかが鍵になる。
「広島菜漬」の加工を担うのが、JA広島市の広島菜漬センターだ。設置は戦後間もない1948年。現在は広島市安佐南区川内地区の農家40人が生産した広島菜を加工している。販売高は約2億7000万円に上る。
藤本康隆総合所長は「農家と消費者の橋渡し役。広島菜の名前を守り、次世代に残すことが役目だ」と話す。
「間引き」で新商品
次世代につなぐための生産者の努力も続いている。広島菜は1株50~60センチ、重さは2、3キロ。栽培期間は約90日。栽培は全て手作業のため、負担が大きいことが課題だった。
同地区の若手農家8人でつくる「かわうちのち」は2022年から「ミニ広島菜」を生産する。1株20センチほどで、25~30日で収穫できる。従来は間引き菜の位置付けで、一般の流通はなかったが、作業負担減少による持続性に着目し、生産を増やした。生食のサラダや炒め物にも向く特徴をアピールし、飲食店やホテルと契約、販路を確保してきた。
「かわうちのち」代表の上村隆介さん(41)は「広島菜を守り、知名度を上げ、川内地区、広島県を良くしたい」と意気込む。
<取材後記>
全国に少なくとも1000以上あるとされる伝統野菜の多くは、高齢化などで継承に大きな課題を抱えたままだ。取材した広島菜は、継承に向けてJAが加工場で後押しし、若手農家でも取り組みが広まっている好事例だった。
栽培を次世代につなぐには、「農家がもうかるように価格に反映してほしい」という声を多く耳にした。
地域の「生きた文化財」である伝統野菜を継承するには、販路を開拓しながら魅力を発信し、生産現場と消費者をつないでいくことが欠かせない。
旅行などで各地を訪れた際には、伝統野菜を使った料理を食べたり、購入したりして各地の魅力を味わい、自分だけの「推し伝統野菜」を見つけてほしい。
(岡根史弥)
