
この日は週に一度の「米粉パン」の日。中でもとりわけ人気の高いスイートポテトパンだ。二つに割ると、もちもちとふわふわが同居する生地から、サツマイモがのぞき、甘い香りが広がった。
県内全ての学校給食に米粉パンが導入されたのは2010年4月。全国的な米の需要減は岡山も同様で、危機感を抱いた県と県学校給食会が「生きた地場産の食育教材」でもある米を活用し、「食料自給率向上への消費拡大を図る」ため、全国に先駆けて米粉パンの提供を決めた。

しかし、米粉100%では膨らまず、食感も餅やういろうに近くなる。「それはそれでおいしいのですが、パンを名乗るため県内のパン屋さんが試行錯誤を重ねました」と向井重明理事長が振り返る。結果、小麦粉と米粉双方の良さを引き出す“8対2”の黄金比にたどり着き、岡山オリジナルの給食用米粉パンが誕生した。
学校給食会は4年後、うどんや中華麺も米粉入りに変え、子どもたちにはパンも麺も米粉入りが「普通」になった。各調理場ではギョーザの皮やてんぷら粉、揚げ魚の衣にも米粉が使われ出した。米粉はまだ小麦粉よりも割高だが、市保健体育課の塩崎恵子さんは「(単価の低い)米飯の回数を増やすことで値上がりを抑え、米の消費拡大にもつながっている」と語る。
きな粉パン、胚芽パン、揚げパンなど米粉パンのレパートリーは豊富だ。フランスのバゲット、ドイツのプレッツェル、デンマークのデニッシュなど世界には風土や文化に合った多様なパンがある。「おいしいお米が育つ岡山の子どもたちには世界一の米粉パンを食べてほしい」。生地に練り込まれた願いだ。