価格、安定供給…課題多く
ラーメンの食料自給率は14%──。石破茂首相が食料自給率を語る際の定番フレーズだ。「国民食」といわれるラーメンも、カロリーベースでは多くを輸入に依存する。自給率向上や国産利用拡大への道筋を探ると、ラーメン店の国産への思いと、適正価格を巡る業界の厳しい現実が浮かび上がった。
「麺の小麦はほとんど輸入。しょうゆの原料の大豆も輸入。チャーシューは国産だけど、餌は輸入だ」。10月の衆院選、自民党有志のラーメン文化振興議員連盟会長も務める石破首相は各地でこう訴え続けた。
実際の自給率はどうか。農水省がホームページで公開している「やってみよう!自給率計算」でチャーシュー麺の自給率(カロリーベース)を計算してみた。
結果は17%。各具材の品目別自給率を見ると、小麦は18%、豚肉は6%、自給率が高いのはネギなどの野菜だけだった。ちなみに、「味玉」になる鶏卵は13%。
「全国産」利益薄く
自給率向上には、まず国産の割合を増やさなければならない。飼料自給率を反映しない「食料国産率」は豚肉が49%と決して低くない。鶏卵は97%。国産にこだわる店の増加が第一歩になる。
東京都港区のラーメン店「麺ダイニングたかなわ」は「食材は全て国産」で人気を集める。麺は北海道産小麦で、チャーシューは鹿児島産や群馬産の豚肉で作る。「極しょうゆラーメン」は1000円程度で提供する。
メニュー開発などを手がけた川口勢津子さんは「安全・安心でおいしくて最高の物を食べてほしい」と、国産へのこだわりは強い。ただ、食材調達コストは高く「ラーメンでの利益はほとんどない」。ラーメンに加え“もう一品”頼んでもらうことで利益を確保しているのが現実だ。

「使いたい」けど…
日本ラーメン協会の理事も務める、あるラーメン店主は「国産を使いたい店は少なくない」と強調する。例えば、スープに国産の新鮮な豚や鶏の骨を使うことで味が良くなるという。
一方、国産食材の調達コストが現状のラーメン価格に見合わないことが大きな壁だ。同協会は、食材や人件費の高騰などを踏まえ、ラーメン1杯「1000円以上」を目指すが、総務省の小売物価統計調査では「中華そば(外食)」の10月の全国平均価格は690円。大きな開きがある。
「自給率向上や食材の国産化は大事だが、価格や安定供給などが整わないと難しい」と同協会理事。コストを反映させた適正価格の実現は、「国民食」であるラーメンでも大きな命題と言えそうだ。
<取材後記>
「大好きなラーメンを食べることは日本農業の応援に結び付くのか」。この疑問が取材のきっかけだ。取材で見えてきたのは、ラーメン業界も、「適正価格」の壁に苦悩している姿だ。
調査会社のアスマークによると、1杯1000円を超えることに対して9割以上の人が「やや高い」「高い」と回答。“1000円の壁”は間違いなくある。しかし、原料価格を適正に価格に反映できなければ、経営は成り立たない。店がなくなれば客も困ることになる。好きなラーメンが食べられなくなる。
新鮮な物、国産食材を使いたいというニーズが多いことも取材を通じて実感した。「国民食」を支えることは、いずれ国内の農業を守る。ラーメンへの新たな向き合い方を学んだ。
(徳橋太郎)
