脂多めの料理と相性良し
国内の米の価格上昇を受けて、日本米より安価な台湾米がスーパーに並ぶようになった。台湾は日本と同じ短粒のジャポニカ種が主流だが、どんな米で日本米との違いはあるのか。現地の飲食店などで探った。
12月上旬。台湾の古い町並みが残る台北市万華区。屋台が軒を連ねる観光地の一角に「猪油拌飯(ジュヨウバンファン)」と看板を掲げた店があった。
「猪油拌飯」は直訳するとラードライス。白米の上に豚の脂と、しょうゆなどで作った特製たれをかけたシンプルなご飯だ。値段は約140円で、台湾で定番の豚のスペアリブスープと一緒に注文する客が多かった。
店でラードライスだけを注文して食べてみた。米は硬めでぱらぱらだが、米が油をまとっているせいか、あまり気にならない。別の店で食べた魯肉飯(ルーローファン)の白米も同様に硬めだった。

冷めると違い明確
日本米を輸入する台湾の企業「鼎三国際」によると、台湾では日本と同じジャポニカ種を食べるが、脂が多い料理や丼物に合うよう水を少なめにして炊飯する。「台湾米も日本と同じ量の水で炊けば、日本米と近い食感になる」という。
一方、日本米と大きな違いを感じたのは冷めた後だ。別の取材で冷めた台湾米を食べたが、ぼそぼそして日本米より食味が落ちることは否めなかった。
農水省によると、米に含まれるアミロースやタンパク質が少ないと、粘りがあり冷めても米の柔らかさが保たれる。台湾も日本も同じジャポニカ種だが、日本は低アミロース米を開発したり、タンパク質が少なくなるよう肥料を抑えたりしているため、より「冷めてもおいしい」という。
品種開発は日本人
元々、台湾で栽培されていたのは長粒のインディカ種だったが、日本統治時代の1927年、日本人の磯永吉が現地の気候に合ったジャポニカ種を開発。以来、ジャポニカ種の栽培が広がった。
磯の出身地・広島県福山市などによると、当時の台湾は食糧不足の日本にインディカ米を出荷していたが、日本人の口に合わず、価格も日本米の半値程度だった。
大学卒業後の12年に台湾に渡り、農業試験場などで働いていた磯らは、何百もの品種改良を重ねた末にジャポニカ種同士を交配した「台中65号」を開発。現在も台湾で生産される品種の多くが台中65号の系統という。
日本の食糧不足の解消と台湾農業の近代化に貢献した磯は、台湾で「蓬莱(ほうらい)米(台湾ジャポニカ種の通称)の父」と呼ばれ、今でも尊敬を集めている。
<取材後記>
「台湾米も日本と同じ水の量で炊けば、日本米と近い食感になる」。取材で聞いたその言葉が気になり、帰国後、日本のスーパーで購入した台湾米を自宅で炊いてみた。
炊き上がった炊飯器のふたを開けると、日本米よりつやがないように見えた。いつもと同じ水の量で炊いたが、やはり少し硬めで、粘り気はない。台湾米を炊くときには、多めの水が必要なのかもしれない。家族は「かんだときに甘味がない」と感じたという。
逆に台湾では脂が多い料理や魯肉飯のような丼物をよく食べるため、もちもちした日本米は合わないのかもしれない。同じジャポニカ種でも、日本米は日本人の好みに合った品種改良の努力が続けられていることが、よく分かった。
(糸井里未)
