同市西区の樫野台小学校の理科室から「えええっ!」と驚く声が響いた。この日は、4年生を対象にした市下水道部によるプロジェクトの出前授業。

「トイレから、下水処理場に届いた君たちのうんこやしっこ、つまり汚泥から、高度処理でリンが抽出され、肥料になる。それが米や野菜をおいしく育て、君たちが食べる。そしてトイレから……」
終わりなき同部計画課の清水武俊さんの話で、資源循環が明快に伝わる。抽出リンから作られた国内資源肥料「こうべハーベスト」を触り、臭いをかぎ、これから食べる給食にもリンが含まれていることを知った子どもたちの下水処理のイメージは、「汚い」から「すごい」に変わった。
プロジェクトは2008年5月の中国・四川大地震がきっかけだった。中国のリン輸出が停滞し、国際価格が高騰。日本国内に「肥料を作れなくなる」危機感が高まった。
一方でリンは、食料や飲料のほとんどに入っており、必然、下水道に流れ込む。当時は再生の発想や技術がなく、下水処理場から処理水に交じって川や海に流されていた。
1995年の阪神・淡路大震災を機に再エネの活用に転換していた神戸市は2011年、「もったいない」と考えた。水処理企業と共同で施設を改修し、リン濃度が最も高い消化汚泥からの抽出に成功。JA兵庫六甲が販売を担うことで量販が実現し、下水リン再生の未来を開いた。
再生リンを使い農家が栽培した野菜は、児童が収獲体験し、給食にも提供される。市内全校の給食米は再生リンで育った市内産だ。
給食の時間が始まった。4年生の「いただきます」の声が教室から響いた。「めちゃうまっ」。もりもり食べる児童の笑顔が輝く。
全都道府県一巡 舞台は世界へ
2023年4月にスタートした本紙連載「給食百景」は、今回で47都道府県を一巡した。
政府は、学校給食を教育活動の一環と位置付けるが、法律上は自治体の任意としており、距離がある。国による給食無償化の議論が進まない大きな理由だが、連載取材を通じて見えてきたのは、全国各地の長年にわたる創意工夫が、給食の風景を豊かにし、日々の一食に地域それぞれの願いや個性が宿る、世界に誇るべき事実だった。
未来を担う子どもを育む大切な一食を提供する学校給食(School Meals)。海の向こうにはどんな百景があるのか。日本農業新聞は、新年から世界にも舞台を広げ、日本を見詰め直す。
(給食百景取材班)