傷む恐れ もまずに食べて
ミカンをもむと甘くなる――。このうわさ、一度は聞いたことがある人もいるのではないだろうか。他にも「腐ったミカンを取り除かないと他のミカンも腐る」「食べ過ぎると顔が黄色くなる」とミカンにまつわるうわさは複数ある。実際どうなのか調べた。
まずは「ミカンをもむと甘くなる」といううわさ。千葉大学名誉教授で園芸植物育種研究所の丸尾達理事長に聞くと、「効果はないでしょう」と答えた。
丸尾理事長によると、ミカンをもむと細胞がダメージを受け、ミカン自身がクエン酸と糖をエネルギーにして、修復しようとする。クエン酸の消費に時間がかかることから「もんですぐ味が変わることはない」という。
消費されるクエン酸は微々たるもので、「舌で感じられるほどの変化はない」と丸尾理事長。ダメージを受けた分、傷んでしまう恐れがあるとして「もまずに食べることを勧める」と話す。
1個腐ったら 箱全てが腐る?
学校が舞台の有名ドラマの名言「腐ったミカンの法則」。箱の中に腐ったミカンが一つでもあれば、全て腐ってしまうという意味だ。
「これは本当。腐敗はエチレンガスと密接に関係している」と丸尾理事長は説明する。エチレンガスは果実が分泌する植物ホルモンの一種で、熟成を促す。ミカンのエチレンガス生成量は果実の中でも少ないが、「腐ると盛んに放出する」と解説する。
ミカンを購入後、果実同士が密着、密閉したままだと、一つ腐った際、全てのミカンが高いエチレンガス濃度にさらされる。熟成が進み、「腐敗も広がりやすい」(丸尾理事長)という。
食べ過ぎると 肌黄色くなる?

「他の子より顔が明らかに黄色い」。記者は自身が3歳ころの写真を見るたび、そう感じていた。母は「この頃はミカンばかり食べててね」と振り返る。
皮膚の変化に関する調査研究を調べると、「柑皮(かんぴ)症」という名前が出てきた。症状に詳しい静岡皮膚科(静岡市)の江畑慧院長は「ミカンを食べ過ぎると顔が黄色くなるのは柑皮症。健康への害はない」と話す。カロテンを含む緑黄色野菜などを取り過ぎると皮膚に沈着する症状で、皮膚が厚い手のひら、足の裏に出やすい。カロテンの摂取量を抑えれば自然に治る。江畑院長は「食べ過ぎには注意だが、ミカンはビタミンと食物繊維が豊富」なため、美容や健康に良い果実だと説明する。
ただ、食べ過ぎていないのに症状が出た場合、他の病気でカロテンを処理できていない恐れがあるとして、受診を勧める。
<取材後記>
何を隠そう、記者は必ずミカンをもんでいる。祖母に教えてもらい、刺激を与えるためにミカンでお手玉もしていた。子どもの頃は、まるでミカンを甘くする魔法のように感じていたが、徐々に「本当に甘くなっているの?」と疑問を持つようになった。
今回、ミカンをもむと甘くなるメカニズムを解き明かそうと取材に着手したが、丸尾理事長によると効果はないことが分かった。多少のショックはあったが、「光センサー選果などの技術の普及で、産地は一番おいしい時期のミカンを出荷している。産地の努力を無駄にしてはならない」と丸尾理事長が話していたのが印象的だ。
おいしく食べるためにも、今後はもむのを我慢し、ミカンの味を楽しみたい。
(高内杏奈)
