返礼品の抜き打ち検査も
ふるさと納税の寄付額1位で全国に名を知られる宮崎県都城市。肉と焼酎を前面に押し出した返礼品PRが奏功し、2023年の寄付額は193億円に達した。しかし同年、人気の鶏肉で1事業者の産地偽装が判明。関係者に激震が走った。産地の信用を揺るがす危機をどう乗り越え、再発防止へどう対策しているのか。舞台裏に迫った。
揺らいだ“信頼”
偽装したのは市内に工場をもっていたヒムカ食品(熊本県錦町)。22年10月から23年4月にかけ、輸入した鶏肉を宮崎県産と偽っていた。判明後、寄付を扱う大手ポータルサイトでは市の全返礼品が8日間、取り扱い停止に。23年の同市への寄付額は前年比で2億円減ったが、「寄付が増える時期だったので、減少に影響した」と市の担当者はみる。

該当品は人気の返礼品で、同社への委託料は1億8000万円。市は寄付者へ返金か代替品の発送で対応し、返金は1割だった。
代替品の発送は都城市ふるさと納税振興協議会が担った。同市の返礼品事業者でつくる民間団体だが「信頼回復を急がなければ」と、日頃の活動費を使い、寄付者の希望に応じて鶏以外の肉も集めた。市の予算は一切入らず、返礼品売り上げの2%を集める協議会が自腹を切って送ったのだ。
協議会は16年に発足し、事業者と市が一体で都城のファンづくりを進めてきた。東京での「ファンの集い」など寄付者へのサービスに加え、災害支援や学生支援など地域貢献活動も行う。小園秀和幹事長は「お叱りの声もあったが、ファンは離れなかった」と、日頃の活動が信頼をつなぎとめたように感じる。
契約審査厳しく

再発防止へ市は「ふるさと納税担当」係を本年度から「ふるさと納税局」へ格上げ。同時に、職員による事業所への立ち入り調査も始めた。同局は「大きな違反は見つかっていない」とし、本年度中に全158事業者の調査を終える予定だ。
返礼品の抜き打ち調査も始めた。通常の寄付ルートで現物を取り寄せ、放射性同位体検査で表示通りの商品かを確かめている。
市との契約時の審査も厳しくした。信用調査会社の情報も使い、新規に応募してきた企業で、数社は審査を通らなかったという。
市はこれら不正防止の試みを「都城市ふるさと納税マネジメントシステム(=FMS)」と命名。同局の野見山修一参事は「将来は市町の枠を超えて連携したい」と、他の自治体への波及を見込む。
食肉や焼酎を扱うJAみやざき都城地区本部の直売所「ATOM」にも昨秋、市の調査が入った。古藤飛鳥店長は「寄付が増えれば、やましいことのある事業者も参入しやすい。市の調査は必要なことで、歓迎したい」と話す。
<取材後記>
ふるさと納税の寄付総額は1兆円を超え、自治体間の競争は激化している。返礼品は農畜産物の販売チャンネルとして、農家やJAにとって小さからぬウエートを占める。それゆえ、寄付額1位の自治体で起きた産地偽装の衝撃は大きかった。あの都城も寄付額を大きく落とすのだろうか? こうした疑問からこの取材は始まった。
ふたを開ければ同市がなぜ、寄付額上位の常連なのかを思い知ることになった。「ふるさと納税を通じて子や孫が幸せに暮らせる街にしたい」(小園さん)と願い、事業者が連携して自己負担でPRを続けることに都城の独自性がある。「寄付額上位を狙うのは、あくまで都城を知ってもらうため」という市の姿勢も潔いと感じた。
(柴田真希都)
