販売好調 高価格帯商品も
日本で抹茶が飲みたい──。欧米を中心に抹茶ブームが広がり、“本物”を目当てに日本を訪れる旅行客がいる。日本からの輸出も年々増え、海外でも抹茶味のラテやチョコレートが気軽に楽しめるようになってきている。世界で広がる抹茶ブームが、日本の茶業界にとって追い風となっているのか探ってみた。
インバウンド(訪日外国人)客でにぎわう東京・浅草で、茶道体験ができると人気を集めるのが茶禅だ。利用客の約9割が外国人。その中でも欧米人が9割を占め、多い時には1日100人を超える。
取材当日、茶道体験に訪れたのは米国から来たスコット・ぺスキンさん一家。ぺスキンさんは「文化的な背景を学んでみたかったのと、米国で抹茶がすごい人気だから体験してみたかった」と話す。
また、体験した人の7、8割が抹茶を購入していくといい、茶禅のスタッフは「健康志向の人がより抹茶に興味を持つのではないか」と話す。
需要つかむ大手

緑茶飲料を手がける伊藤園(東京都渋谷区)は、世界に向けて「日本のお茶」の価値を発信しようと昨年12月、愛知県常滑市の中部国際空港に物販と和カフェを併設した「伊藤園JapaneseTealeaves&Tearoom」をオープン。インバウンド客らも訪れている。
同店限定のお点前体験メニュー「抹茶(菓子付き)」などがお薦めで、愛知・西尾産抹茶を使用した商品など、抹茶関連の商品が売れ筋という。
昨年には欧州向けの抹茶入り緑茶飲料の販売など、需要の高まりに合わせた商品を国内外で展開。同社が取り扱う抹茶の数量は2024年度、過去最高を更新する見込みだ。同社は「これまでにない抹茶需要の高まりを感じている」と話す。
商品供給課題も
宇治茶の産地、JA京都やましろでは、24年産荒茶の販売高は前年比21%高の47億8800万円と好調だ。抹茶の原料となる碾茶(てんちゃ)が販売額を押し上げた。コロナ禍で価格が低迷していたが、近年の抹茶ブームを受けて盛り返している。直近では高価格帯の抹茶の需要が高まっており、JAの担当者は「茶商からは、販売に個数制限を設けるほど品薄との声が入ってきている」と話す。
「高級な手摘みのものを増やしてほしい」との要望もあるが、「手摘みはコロナ禍で減っていた。労力がかかり、摘み子の確保など課題は多い」(同)という。
ブームを受け、24年産は「数量も金額も好調で良い年だった」(同)。「農家の収入が上がれば、後継者や新規就農者が出てくると思う」(同)と今後も追い風に期待する。
<取材後記>
緑茶輸出額が過去最高を更新し、海外での「MATCHA」の認知度は高まっている。海外で存在を知り、高品質な日本産を求めて訪れる人もいて、空前の「抹茶バブル」。一方で、日本の茶業界に追い風は吹いているのかと感じたことが取材の始まりだ。
茶禅のスタッフから「海外ではコーヒーやオレンジジュースと組み合わせて飲むらしい」と教えてもらった。日本人が考えない組み合わせに衝撃を受け、先入観にとらわれない販促や提案が必要なのかもしれないと感じた。
日本のお茶文化をつないでいくためには、昨今の抹茶ブームを入り口に、リーフを含め、お茶の消費をつかんでいくことが必要だ。碾茶を含めた茶全体の生産基盤強化との両輪で、この追い風を商機にしていきたい。
(菅原裕美)
