期待の新品種“見本市”に
昨年末に駆け込みで行ったふるさと納税の返礼品が、続々と自宅に届いている。黒毛和牛やアイスクリーム、ウナギなど自宅の冷蔵庫を占拠する食材たち。自身の計画性のなさにあきれつつ、「まだ干し芋が届いていないな」と寄付先を確認すると、製造元が明記されていた。どんな会社なのか興味が湧いたので訪ねてみた。
早期参入でシェア

干し芋は、茨城県潮来市のリンクアップが製造していた。「さとふる」が運営するふるさと納税ポータルサイトの「干し芋」部門でレビュー件数が1位。人気の秘訣(ひけつ)を谷田川勝巳代表に聞くと、「干し芋に参入した2017年当初から、ふるさと納税を主力販売先に位置付けてきた」と先行者メリットを強調した。
今では会社の売り上げの15%を干し芋が占め、市の寄付件数の5割以上が同社の干し芋だという。
「レビューが励みになり、品質向上にもつながった。賞味期限の見直しや、かびの発生を抑える脱酸素剤の変更も寄付者の厳しい意見を真剣に反映した結果だ」と振り返る。
市では、24年度から市内の名所が写った絵はがきを用意。事業者に同封を頼み、PRする。四季折々の名所に興味が湧き、「いつか訪問してみたい」と、私は市の作戦に見事にはまっていた。
「最高の一粒」を

次にJA産の返礼品があると聞き、イチゴ生産量日本一の栃木県を訪れた。「返礼品は全国に向けたプロモーションの一環」。那須塩原市の北部園芸センターで、イチゴの発送を見守るJAなすの企画管理課の櫻岡悠介さんは、そう強調した。
見栄えや配送時の衝撃を抑えるため、今年から出荷規格を平パックに変更。返礼品には1玉40グラム以上の大玉を用い、高品質を維持するために、寄付の受付期間や数量を制限する徹底ぶりに驚いた。
JAいちご部会の廣木一央部会長は「返礼品は県が新たな主力品種に位置付ける『とちあいか』を全国に広める絶好のチャンス。味、色味、大きさがそろった最高の一粒を届けたい」と話す。
寄付者と返礼品事業者をつなぐ役割を果たすのが、ふるさと納税のポータルサイトだ。「さとふる」や「ふるなび」などの大手に加え、昨年12月にはネット通販最大手のアマゾンが新規参入し、20社以上が競合する。
「さとふる」では、配送業者を手配して事業者と直接やりとりし、自治体の負担を軽減。複数の倉庫も構え、返礼品の保管や出荷作業を代行。人手不足に悩む事業者を影で支えていた。
<取材後記>
ふるさと納税の利用者は“いかにお得な”返礼品を選ぶかが最優先になりがちで、寄付した自治体や事業者のことを深く考える機会はあまりないだろう。
取材から、事業者にもさまざまな戦略があることが見えた。主力販売先と考える事業者や、販売促進ツールとしてテストマーケティングに位置付ける事業者など。新たな事業者の発掘や返礼品の品質向上に一体となって取り組む自治体の姿も印象的だった。
返礼品ばかりが注目されがちな、ふるさと納税。今、是非を含めてさまざまな意見が出ているが、現場を取材すると、関係者の熱い思いが見えた。
取材でお世話になった事業者や自治体は多い。そこにふるさと納税をするため、まずは大きな冷蔵庫を買おう。
(志水隆治)
