就職前にスキル学ぶ道も
新規就農で農業法人への就職を選ぶ若者が増えている。49歳以下の就農者の選択肢で最多を占めるようになり、雇用就農に必要なスキルが学べる学校も出現した。雇用就農に必要な技術や、法人が求める人材とはどういうものなのか──。学校や法人を訪ね、「今」の状況に迫った。
農水省の統計によると、2023年の新規就農者は4万3460人で、うち49歳以下は1万5890人。彼らの就農形態を見ると、雇用就農が6880人で最多だった。20年までは親元就農が最も多かったが、21年以降は雇用就農が上回るようになった。
同省は逆転した要因を分析していないが、担当者は「知識・経験が少ない中、初めから独立は難しいと考える方が多いのでは」(就農・女性課)と話す。
実習で“即戦力”

雇用就農の増加を受け、福島県南相馬市は24年、法人への就職に必要なスキルを1年間学べる「みらい農業学校」を開設した。週5日の全日制で、現在は全国から集まった1期生13人が学ぶ。
研修農場の実習を通して、35品目以上の野菜の栽培技術が学べる。さらに、機械講習や優良法人とのつながりをつくる授業も含まれ、卒業後は法人の即戦力になれるようにする。この春から同市の法人への就職が内定した東京都出身の雙田貴晃さん(32)は「学んだスキルを生かし、強い会社をつくっていきたい」と意気込む。
人間関係円滑に

一方、法人側はどのような人材を求めているのか。多くの法人代表が挙げるのがコミュニケーション力だ。従業員が何人もいるため、積極的に自己開示して周囲と打ち解け、日々の作業状況を伝え合う関係になることが欠かせない。周りを見て自分がやるべき仕事を先読みする力も大切という。
「先輩や同僚から素直に学ぶ姿勢が重要」との意見も目立った。農業の知識は働きながら十分に学べる。「自分の方が多少知識があるからと、初めから自己流で仕事をする人はトラブルになる」(宮城県の法人)との声もある。
法人は従業員を長期雇用したいため、将来独立を希望する人の採用は敬遠しているとの声も聞かれた。せっかく技術を教えても独立されると、それまでの時間や労力が無駄になる。なるべく実家が農家でない若者を求める法人もあった。
資格はトラクターの操作に必要な大型特殊自動車運転免許と、資材運搬で必要なフォークリフト運転技能講習修了証が必須。入社前に取得しておくことが望ましいという。
<取材後記>
雇用就農で農業に挑戦したい──。熱意を持ったみらい農業学校の学生を見て、まだまだ農業に可能性があると感じた。どのようなスキルがあれば若者が法人で活躍できるのかに関心を持ち、取材を進めた。
見えてきたのは、法人が知識や技術より、コミュニケーション力や素直さを重視していることだった。こうした点は、一般企業が就職活動中の学生に求める要素と同じ。人間力が試されている。
一方、コミュニケーションをとるにも基礎知識はあった方がよいという学校側の説明も説得力があった。専門用語一つ知っているだけで、他の従業員との話は広がる。多くを吸収した学生は春から現場の第一線に立つ。彼らの活躍を引き続き追っていきたい。
(木寺弘和)
