少量多品種で納入見込み
ニュースで連日取り上げられるようになった政府備蓄米。3月中にも一部が放出される見込みで、価格に一定の影響力があるとして国民全体から高い関心を集めている。ただ、実際に備蓄米を見たことがある人は少なく、謎が多い。どんな品種が備蓄されているのか、放出されればどの産地の米が食べられるのか。調べてみた。
購入先は幅広く
政府備蓄米は、1995年に施行された食糧法で「米穀の生産量の減少によりその供給が不足する事態に備え、必要な数量の米穀を在庫として保有すること」と定められ、国は100万トンを適正水準として備蓄する。
国は政府備蓄米をどのように確保しているのか。国の資料をさかのぼると、備蓄方法が「棚上げ方式」に切り替わった2011年以降、作付け前の事前契約を基本に、国が産地から毎年20万トンを目安に買い入れている。買い入れた米は5年間保管した後、非主食用で販売する。

国が備蓄米を買い入れる入札では、集荷業者や米卸といった有資格者140余りが、国に販売できる枠を争う。「備蓄米は転作扱いになる米の中でも主食用米に近い水準で国に買ってもらえるため、貴重な収入源」(ある産地関係者)などのメリットがあるという。
銘柄の縛りなし
では、備蓄米の銘柄は何か。農水省によると「銘柄の縛りはない」。ただ、産地の偏りは顕著で、24年産の入札結果を県別枠で見ると、福島が最多で2万6313トン、次いで新潟が2万4499トン、青森が2万4416トンで、東北や北陸が多い。一方、主産地でも茨城は616トンと少なく、三重や佐賀などは落札していない。
2月中旬、報道陣に公開された埼玉県にある備蓄米の巨大倉庫には約2万トンが収容され、フレキシブルコンテナバッグ(フレコン)や30キロ紙袋が、高さ約5メートルまで壁のように積み上げられていた。銘柄を見ると、この倉庫では新潟「こしいぶき」が中心だった。
同省によると、政府備蓄米の放出は集荷業者が入札を通じ、全国に300ある倉庫から産地や品種、等級、フレコンといった荷姿を選ぶ予定。放出された備蓄米は集荷業者から流通業者などに引き渡される。大手米卸によると、23、24年産米が少量多品種で卸に納品される見込みで、「(家庭向けは)複数品種のブレンド米での販売が基本になる」(同)。「備蓄米は業務用に仕向けるだろう」(別の米卸)との声も多く、消費者は備蓄米を入手したとしても、それがどの銘柄かは分からなくなりそうだ。
<取材後記>
米に関心がある消費者の一人として、政府備蓄米を食べてみたい。一般に流通している米と同じだとしても、食べてみたいと考える人が記者以外にもいるのではないか。
最近、ニュースで「政府備蓄米」の活字を見ない日はない。それほどまで社会的関心が高まっている一方、具体的な産地、品種、銘柄などは意外と知られていない。かくいう記者も、取材をするまで政府備蓄米を見たことすらなかった。米袋に付けられた「備蓄用米」の札を見つけて、備蓄米は本当にあったと実感した。
備蓄米の放出は米価下落につながる懸念がある。食べてみたい気持ちはやまやまだが、放出しないに越したことはない。今後、同様の事態が起きないよう、米流通の安定に向けた仕組みづくりが急がれる。
(鈴木雄太)
