東日本大震災の記憶を風化させない--。広島市の紙芝居作家のいくまさ鉄平さん(68)は自らの作品を通じ、東京電力福島第1原子力発電所事故などで被災した農家らの無念を今に伝え続けている。殺処分される牛の視点で描いた酪農家の苦悩や、避難を余儀なくされた農家の物語などを発表。海外でも披露した。オリジナルの紙芝居は200を超える。
震災から約1年、被災地に物資などを提供する中で聞いたのは「心の支援」を求める声。原発事故と原子爆弾、広島と同じように放射能被害に晒された県民としてできることを考え、紙芝居に残すことに行き着いた。
元々、広島市職員として地域の祭りや歴史を伝える紙芝居を作ってきた。制作する中で感じていたのは、広島市内には昔話があまり残っていないということ。「東北の被災地も物語が消えてしまいかねない」と記憶をつないでいく決意をした。
作品の一つ「浪江ちち牛物語」は原発事故で殺処分となった牛の処分に苦しむ元酪農家・石井隆広さん(76)と絹江さん(73)夫妻の話し。福島県浪江町の自宅は今も帰還困難区域。現在は福島市で避難生活しながら語り部として活動し、浪江町でエゴマを育てる。
手がけた作品は、原発大国・フランスでの上演会や、100近い作品が英訳され、米国のスタンフォード大学に収蔵されている。2024年度も仙台市で被災したネパール人や英国人の物語を紙芝居にするなど、海外への発信にも力を注ぐ。
いくまささんは、「何時間あっても語り尽くせない思いを紙芝居にしながら、これからも被災地と関わり続けていきたい」と話す。
(大森基晶)