台湾海峡に面する中部・雲林県の建国国民中学校で給食の調理が始まった。厨房には新鮮な農産物が並べられ、調理員たちが慌ただしく動き回っていた。
毎日の献立を考案する学校栄養士の楊秀芬(よう・しゅうふん)さんが、端末から「学校食材情報プラットフォーム」システムにアクセスし、献立ごとの食材、生産者、産地、納入業者を紐づけ入力していった。全台湾の学校栄養士らが行う毎日の業務の一つだ。
入力された食材情報は、給食を食べる子どもや保護者だけでなく全国民が閲覧できる。食農教育などを担う大享食育協会の担当者は「台湾で暮らす全ての人が子どもの食を見守ることができる、台湾独自のシステムです」と胸を張った。

システムの開発は10年前。食品事故の続発がきっかけだった。2000年代、おでんの練り物に化学原料が使われた「毒でんぷん事件」や、学校給食で新米と偽って古い輸入米が使われるなどの事件が相次いだ。消費者の間で食品不安が高まり、給食にも公的認証を受けた食材の利用を進めたり、食材の情報を透明化しようとしたりする動きが波及した。
日本の文部科学省に当たる教育部が、台湾全土の公立幼稚園、公立学校の毎日の献立の写真と各食材の産地や生産者の他、一部の生産履歴もわかるシステム「学校食材情報プラットフォーム」を開発したのは15年。スマートフォンから誰でもアクセスできる手軽さから、国民の間に食と農へのリテラシーが高まっていった。
昨年12月4日午前、建国国民中学校の厨房では、調理員3人がカットしたダイコン、キュウリ、トウモロコシを食缶に詰めてマヨネーズで和えていた。
栄養士の楊さんはこのサラダの他に、給食で使う全ての食材をプラットフォームに登録した。記者がプラットフォームからアクセスすると、野菜はいずれも雲林県産で、トウモロコシは冷凍品、ダイコンは有機農産品だと分かった。調味料も情報公開の対象で、マヨネーズの製造元は台北市の食品メーカーだった。
台湾の給食で使う食材のほとんどは、行政が定める➀優良農産品➁有機農産品➂トレーサビリティー農産品➃生産者情報がわかるQRコード付き農産品――の4つの認証のいずれかを取得している。
「3章1Q」と呼ばれ、どの認証に該当するかもプラットフォームから確認でき、トレーサビリティー農産品は種まきから収穫までの栽培履歴も知ることが可能だ。

正午過ぎの給食の時間。子どもたちは皿の上に優良農産品の認証を受けた鶏肉の唐揚げやサラダを山盛りにした。安心でおいしい給食を届けるため、生産者や調理現場の努力で台湾の給食は今日も続いている。
(糸井里未)
