クイズや実験 学びも提供
新型コロナウイルス禍で、アウトドア需要が高まり、注目を浴びた観光農園。コロナ禍を経て、どう変化したのか。記者が拠点とする広島県内で取材すると、消費者の満足度を高めるための環境づくりや、子どもを対象としたコンテンツ拡充などの姿が見えてきた。
実りを絶やさず
「コロナ禍があったからこそ、消費者が楽しめるサービスを突き詰められた」。コロナ禍真っ最中の2021年3月にイチゴの観光農園を始めた、広島市のモグベリー代表の中池哲平さん(38)は、そう話す。市内中心部から車で40分と立地の良さも生かし、開園4年で県内屈指の観光農園となった。
同農園のこだわりは、消費者が満足できる環境づくり。いつ利用しても果実が多く実った状態を保つ。1日6クールの30分食べ放題で、「紅ほっぺ」「よつぼし」などの幅広い5品種を用意する。
中池さんは毎日ハウス内を観察し、イチゴの状態などを基に予約人数を1クール平均20~25人に調整。実り過ぎると、1万7500人が友達登録するLINEの公式アカウントで利用を呼びかける。
ベビーカーや車椅子が通れるよう、栽培棚の間隔は通常90センチのところを110センチに広げる。その他、休憩スペース、多目的トイレ、身体障害者専用の駐車場も農園内に備え付け、消費者が安心して楽しめる環境を整える。
その結果、24年(1月~6月中旬)は県内外から年間1万6000人が利用し、8割がファミリー層。夫、娘2人と一緒に利用した田村佳菜さん(27)は「品種の食べ比べができて娘も満足だった。足元が芝生なので汚れを気にせず安心して楽しめる」と話した。
「がっこう」定着

県北部の三次市で約40年にわたって果実狩り体験を提供する平田観光農園は、子どもが座学と現地実習で果実について学べる「くだもんがっこう」を21年度に始めた。
同農園は、イチゴを軸に14品目の果実狩り体験を周年で提供し、年間10万人が訪れる。しかし、20年度はコロナ禍の影響で年間売上高が例年の85%まで落ち込んだ。
売り上げ回復へ個人向けサービス強化に取り組み、その一つが「くだもんがっこう」だった。室内で果実を使った実験やクイズを行った後に、畑で花の観察や収穫などを合計60分で体験。5~15歳を対象に、23年度は約1000人が利用した。
21年度の売上高は例年の97%まで回復し、「がっこう」は人気コンテンツとして定着。加藤瑞博専務は「子ども、親、祖父母の3世代にわたって楽しんでもらえる農園にしていきたい」と力を込めた。
<取材後記>
取材のきっかけは、記者が21年9月に広島へ転勤した当初に取り上げたモグベリーだ。コロナ禍中に何度か取材させてもらった思い入れの深い農園。記者はコロナ禍が始まった20年4月に入社し、広島に来て以降もその関連の取材をする機会も多く、アフターコロナになって、影響が気になっていた。
取材を通じて印象に残ったのは、生産者が消費者を思いやる精神を持っていたこと。今回取り上げた両者共に消費者の視点に立ち、満足度向上に取り組むなどピンチをチャンスに変えていた。
コロナ禍が農家に与えた影響はネガテイブな要素もあるが、ポジティブな要素もあると分かった。記者も彼らを見習い、農家の視点に立った情報発信に一層努めていきたい。
(西野大暉)
