脂落とす調理法も効果的
細かいさしが入った和牛肉。柔らかくジューシーで、おいしさが口の中に広がる。しかし、年齢とともに「和牛肉を多く食べられない」「すぐ胃もたれしてしまう」などの声を耳にする。なぜ和牛肉は満足感が高いのか。長く和牛肉を楽しむための考え方を探った。
うま味 腸が受容
高い満足感は、和牛肉特有のうま味成分が生んでいる。和牛肉には赤身由来のグルタミン酸やイノシン酸などのうま味成分や、脂肪由来のオレイン酸などの脂肪味が多く含まれる。これらが腸の味覚受容体からも脳に伝わり、満足感を与え食欲が抑えられている。
「年を取ると高いエネルギーを必要としないため、消化機能が低下するから」と答えてくれたのは、持ち運べる脂肪の質分析機器の開発者でもある家畜改良センターの入江正和理事長だ。基礎代謝が落ち、消化器官も老化することで胃もたれを起こしやすくなるという。厚生労働省が発表した2022年の国民生活基礎調査によると、胃のもたれや胸やけを感じる人は人口1000人当たり22・2人。65歳以上では同37・6人と増加している。

では、胃もたれとは何か? 食べ過ぎて胃に食べ物がたまり、消化されない状態が続くことだ。食べたものは胃に蓄積され、十二指腸から小腸に送られて消化・分解される。十二指腸は消化管ホルモンを出して小腸で脂肪の消化・吸収を促し、胃の運動を抑制する。
特に和牛肉など脂の多い食べ物は、消化に時間がかかり、胃から小腸へと送られずに内容物が長時間とどまるため「脂の多い食品を食べると胃もたれしやすい」(入江理事長)という。
組み合わせ工夫

胃もたれをせずに、おいしく食べられる方法はないのか。入江理事長は「脂の多い調理食品とは一緒に食べないことが鍵」と強調。「栄養バランスや腸の活動の面から、食物繊維の多い野菜などと一緒に食べることがお勧め」という。
和牛肉を食べることは、健康上のメリットも大きい。加齢とともに痩せ、筋力の低下や硬い食べ物が食べられなくなる。一方、肉から得られるタンパク質は、優れた筋肉の材料で、脂肪もエネルギー源になるため、健康の維持には摂取が必要不可欠だ。
入江理事長は「和牛肉は柔らかく、風味がよく食欲をかきたてる。他の食材と合わせて和牛肉をおいしく食べてほしい」と語る。モモなどの脂肪の少ない部位を選ぶことや、鉄板焼きやすき焼き、煮込みなどの「脂を落とす調理法も効果的だ」とする。
<取材後記>
「和牛=脂っこい」という印象を持つ人が多い。記者は胃もたれこそしないものの、いずれは胃もたれと戦わなければならないのか──と感じている。入江理事長も「部位を選んで食べている」と話すように、工夫して和牛肉をおいしく食べていこう。
消費拡大には「和牛=おいしい」というイメージを持ってもらうことが必要だ。JAグループが昨年10月に開いた国消国産をPRするイベントでの和牛焼き肉の試食会や、JA全農が昨年11月29日の「いい肉の日」に合わせたイベントなどが効果的だ。参加者から「柔らかくておいしい」「また食べたい」といった声を聞くことができた。
和牛肉は満足感が高く、幸福感を感じられる。少し頑張った自分へのご褒美として和牛肉を食べたい。
(岡根史弥)
