SNS発信の場所に密集
名所に観光客が密集し、地域社会に問題が生じる「オーバーツーリズム」。コロナ禍明けからインバウンド(訪日外国人)が回復し、畑への立ち入りなどの被害が深刻化している。美観が有名な北海道美瑛町では、農業地帯での人混みは日常の光景となった。名所自体をなくすなど観光客に苦慮する同町で、被害や対応を探った。
道路真ん中で
北海道の中央に位置する美瑛町は、広大な丘陵地帯や輪作によるパッチワークのような美しい農地の景観が人気だ。同町を訪れる外国人観光客が急増。特に交流サイト(SNS)の利用率が世界有数の韓国人の場合、「インフルエンサー(影響力がある情報発信者)と同じ場所、ポーズの写真を撮ろうと、観光スポットが過密になりやすい」(美瑛町観光協会)という。
特に人が集中するのが、たばこのパッケージに使われた「セブンスターの木」と、動画配信「Netflix(ネットフリックス)」で話題になったドラマのロケ地「クリスマスツリーの木」。どちらも畑に囲まれており、農機移動の妨げや畑への無断立ち入りが懸念される。
3月下旬に「セブンスターの木」を訪れると、オフシーズンにもかかわらず付近の路上に外国人観光客が列をなしていた。木そのものではなく、SNSではやる木と正反対の丘陵地帯を背景に、道路のセンターライン上でポーズを取りながら写真に収まっていた。
美瑛町観光協会の担当者は「似た風景は他にも町内にある。木を撮らないなら農業地帯に密集しないでほしい」と本音を吐露。近隣には、人気の撮影スポットだったがオーバーツーリズムを受け1月に伐採された「シラカバ並木」の切り跡が無残な姿で残る。
「クリスマスツリーの木」でも、撮影する人だかりができていた。観光客らは「SNSで見た」「ドラマで知った」と話していた。

畑侵入で警報
対策として、美瑛町観光協会はシーズン中に警備員を配置。駐車場がない「クリスマスツリーの木」では、観光バスが停留しないよう回送ルートも設けるなど、交通整理を徹底する。町は、畑に侵入すると英語など4カ国語で警報を鳴らす検知カメラも設置した。
この状況を、農家の大西智貴さん(40)は「農家にマイナスでしかない」と強調する。自身も観光と農地の調和を目指すプロジェクトの代表として、独自看板の設置などを進めてきた。
大西さんは「先人たちがバトンをつないできて今の農業があり、景観がある。それを理解して観光を楽しんでもらいたい」と共存を願う。
<取材後記>
現在の美瑛町への観光客数はコロナ禍前と同水準の年間240万人ほど。ではなぜ、オーバーツーリズムが深刻化しているのか。今回の取材で、SNSが問題を複雑にしていることを知った。
同町には、CMで有名な「ケンとメリーの木」など昔から人気の観光地が複数ある。そのような場所には、大きめの駐車場が設置され、交通整理もされてきた。ただ、SNSが観光地の序列を変え、駐車場がない、または狭い場所に人が集中してしまうようになった。
農地への立ち入りに加え、大西さんは「農作業中に勝手に写真を撮られるのもストレスだ」と言っていた。外国人観光客が相手だと難しいが、農業や農家へ敬意を持った仕組みづくりが求められる。
(関竜之介)
