一時は深さ2メートル以上の雪に埋もれた青森のりんご園。“ゲリラ豪雪”を耐えた花芽のリンゴ一家が顔を出すと――。


たくましい男の人が枝の雪を下ろすと、じっちゃがぴょこりと現れた。「やれやれ、こんなに湿って重くて、短い時間に降り積もった雪は初めてじゃ」
男の人は農園を継いだばかりの蒔苗勝也さん。去年の夏に芽吹いた僕ら一家の世話をしている。年末年始にすごい雪が降った日も、ラッセルしながら農園にやって来て、雪下ろしをした。冬登山の心得がある38歳だって。
周りを見ると、幹が割れたり、かじられたり、枝が折れたり。勝也さんはしょんぼりしてるけど、元気出しなよ、僕ら一家が立派な実になるからさ。
それにしても……。

東北に大津波が押し寄せた翌年だから、2012年じゃ。2月にサラサラした大量の雪が積もって、「わい化栽培」の木に被害が集まった。でも今回は「マルバ栽培」の木に被害が目立っておる。
わい化は樹形をコンパクトにして効率化と多収を目指す台木を使ったイギリス発祥の栽培法。マルバは大きく丈夫な樹にする台木で長期安定の収穫が見込める、日本伝統の栽培法じゃ。青森は今もマルバが主流で、勝也さんの農園も3・5ヘクタールの半分がマルバ、残りがわい化で、わい化よりさらにコンパクトな木にする「高密植栽培」も試しておる。
どうして栽培法で被害が違うかって? 近く青森県が調査結果を発表するから、待っておれ。近年はリンゴの価格が高いから、被害額も雪害としては過去最高になるやもしれぬし、被害状況からみれば収量には思ったほど響かないかもしれぬ。
それにな……。




十数年ぶりに青森を襲った豪雪は、高齢化と人口減が進んだ農業全体の課題を突きつけた。リンゴ関係者は「雪害で様々なことを学んだ」と語った。

「今回は短時間に記録的な積雪量となり、人口減で除雪する人手が減る中、園地の除雪まで手が回らない農家が相次いだ。とりわけ高齢農家は、家に若い人がいれば園地の除雪もできたが、そうでなければどうしようもなかった。前回の雪害は13年前で、除雪できた人も多かったが、今はそうもいかない」
市が3月、被災した産地の中で一早く改植用の苗木購入補助を一般会計予算に組み込んだのは、被害の大きさを予想してのことだ。

ところが、澁谷さんが農家を訪ねると、こう言われた。「60歳を超えて植え替えても、ちゃんと実が成る頃には70歳を過ぎている。今残っている木でやるしかない」。澁谷さんはハッとし、悩んだ。
どうするか。「答えはまだ見えていない」と率直に語る。

「雪害は、高齢で離農が増える中、技術がなくても就農が容易で、早期多収が見込める品種の必要性を示した」と思うからだ。
敷地内には、国産主力品種「ふじ」の原木が今も大きな腕を広げている。リンゴは接ぎ木で繁殖される。85歳の原木から、国内外にある全ての「ふじ」が派生した。青森でも栽培品種のトップだ。

澤村さんが高さ5・5メートル、幅11・7メートルの原木を見上げた。「アメリカからもらった苗木を育成して『ふじ』が生まれ、農家が育て、地域ぐるみで産業化への軌道に乗せた。今も『ふじ』を超える品種はないが、『紅つるぎ』のような新品種が農家に支持され、『ふじ』のように愛されたらうれしいです」

「マルバ栽培の木に雪害が多かったとしても、決してダメなわけではない。最も適応力がある台木だけに、剪定などの基本がおろそかになっていないか、見直す時だ」と語る。
注目される高密植栽培についても、「早期収穫が可能な素晴らしい技術。ただし、長野県のように適地の選定が重要で、台木の供給体制や多額の初期投資に見合うかの見極めも必要」と農家の立場に立って指摘した。
工藤さんは、150年前に青森でリンゴ栽培を始めた旧弘前藩士の末えいの中で唯一のリンゴ農家。「ふじの育ての親」と称される故・齊藤昌美氏の技術を継ぐ最若手の52歳で、自身の農園には被害がなかった。

齊藤氏は「りんごより 我を生かす道なし この道を歩く」との言葉を遺した。文豪、武者小路実篤の名言の冒頭を「りんご」に置き換えたものだ。工藤さんは「青森に豪雪はつきもの。みんなでリンゴ作りの道を楽しもう」と呼びかける。
ゴールデンウィーク最中の4日夕、青森県弘前市にあるJAつがる弘前の施設に明かりが灯った。農家が摘み取ったリンゴの花を自動車で次々と持ち込んでいる。花粉を取り出す「開葯(かいやく)」作業の始まりだ。
リンゴは自ら受粉できないため、他品種の花粉が使われる。最も使われる花粉は、開花が早く、「ふじ」などどの品種にも受粉できる「王林」のそれだ。

同JAでは、管内の若手農家で作る青年部と営農指導員が作業を分担している。青年部メンバーの蒔苗勝也さん(38)も、一日の畑仕事を終えた後に駆け付け、汗を流しながら作業をしていた。
「近年の温暖化などで栽培環境が大きく変わり、自然受粉から人工授粉に変える農家が増えています。だから、開葯作業は良いリンゴを育てる産地の生命線です」。JA北地区営農係長の神幸人さん(44)が言った。









国産リンゴ





