
人口減少下で食料を安定供給するため、生産性の高い農業経営の育成を求めた。具体策として農地の集積・集約や、スマート農業の導入を挙げた。一方、兼業などで農業に携わる「多様な農業人材」にも一定の役割があるとした。
食料の流通では、生産のコストが農産物価格に反映されづらい実態を踏まえ、適正な価格形成の仕組み構築を新たに目指す。フードバンク支援や物流効率化など「食品アクセスの改善」も掲げる。
物流の課題は輸送の最終区間「ラストワンマイル」を中心に議論してきたが、産地から集出荷場など出荷段階でも対策が必要だとの地方の意見を受け加筆した。
農村政策では、人口減に伴う地域コミュニティーや用排水路などインフラ維持などを提起。環境負荷などに配慮した持続可能な農業への転換も掲げた。
答申を受け取った野村農相は「基本法見直しに向けた検討を深化させ、具体的な施策の検討を進めたい」と述べた。
[解説]具体策の議論深化が鍵
施行から25年ぶりとなる食料・農業・農村基本法の改正に向け、農水省の審議会の答申がまとまった。平時からの食料安全保障の確立などの課題を網羅し、各解決策を提起した格好だ。ただ、一部では実現への課題も見え始めている。課題の指摘に終わらず、具体化まで議論を引き続き深めることが重要だ。
答申は、農政の前提が大きく変化したことを示した。需要に応じた生産を目指し食料価格を市場メカニズムに委ねたが、デフレで安売りが常態化し事業継続にも影響を及ぼしたとの指摘は象徴的だ。
一方、対策となる適正価格形成の仕組みの法制化は難航が見込まれている。農水省が新設した協議会では多くの関係者が検討の必要性に理解を示したが、値上げで消費が落ち込む懸念は根強く、コスト上昇分の全てを価格に反映することに慎重な意見が相次いだ。
政府は来年の通常国会に基本法改正案を提出する方針だ。掲げた理念の実現方法を含めて国民に説明を尽くし、議論を活性化することが欠かせない。
