今夏にパリ五輪・パラリンピックが開幕する。五輪は経済やテクノロジー、人権、栄養などその国の状況を映し出すリトマス紙みたいな存在だ。
選手村の食事もそうで、日本開催だった前回は皆が日本食に期待していた。日本では3食が当たり前でフードロスが問題になっているが、恵まれた国ばかりではない。食べ物をスーツケースに入れて持ち帰ろうとする選手もいる。その現実を見て、日本の選手がどう感じるかが大事だ。
食は人が生きていく上でなくてはならないし、アスリートの体づくりにも必要だ。ただ、最近は栄養学が発展して「薬としてご飯を食べる」みたいな話になり過ぎている。食は楽しむものだし、自分が何を欲しているかという感覚を磨くことも大切。日本には「走り」から「名残」まで旬を表す言葉があるように、栄養素だけでは語れない食文化がある。
私は、米は必ず土鍋で炊いている。焦げがおいしいし、毎回微妙に炊き上がりが変わる。インコンシステントな(一貫性のない)状態を楽しんでいる。
米が余っているというのは、おかしな話だと感じる。もう少し米の食べ方とかを工夫できないのかなと思う。
食料自給率を相当な割合まで上げないと、何かあったら大変なことになる。国が旗を振り、地域で食に関わることにどのぐらいのバリュー(価値)があるかを国民に分かってもらう取り組みが絶対に必要だ。
農業を古い産業だと言う人がいるが、新品種が出たり、持続可能な形を追求したり、農業は最先端だ。新しい知見を使ってよいイメージがどんどん出てくるといい。
人口が減ってスポーツも、チームが組めないとか、学校単位で活動ができなくなるなど問題を抱えている。地域全体で解決策を考えていく必要がある。
スポーツが市民に愛されるためにどんな貢献ができるか。四国では、農業をしながらスポーツチームを組んでいるところもある。選手たちが関わって地域の農産物ブランドをつくるなど、農業との連携に注目している。
日本にはおいしい食べ物があり、世界をリードする農業がある。われわれは、食べなければ生きていけない。その根底を支える農家に感謝したい。
むろふし・こうじ 1974年、静岡県出身。陸上競技ハンマー投げで日本選手権を20連覇した。五輪に4大会出場し、2004年のアテネ大会では金メダルを獲得した。20年から現職。