従事者も3人感染
米国で3月下旬、高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)に感染した乳牛が世界で初めて確認され、全米12州101農場に広がっていることが同国農務省(USDA)の発表資料から明らかになった。搾乳作業を通じて感染牛と接触した酪農従事者3人も感染していた。事態を重く見た農水省は、都道府県に周知を図る一方、牛に原因の分からない乳量減などの症状が出た場合、HPAI検査を検討するよう呼びかける。USDAによると、乳牛の感染は3月26日、カンザス州で初めて確認され、6月14日までに計12州に拡大。生乳から多くのウイルスが検出されたことから、消毒が不十分な搾乳器具を共有するなどして感染が広がった可能性が高いという。
一方、感染牛の症状は比較的軽く、泌乳量の減少や食欲低下、透明な鼻汁の排出などで10日ほどで回復した。
米疾病予防管理センター(CDC)は4月以降、感染牛と接触した酪農従事者3人への感染も確認したと発表。うち2人は結膜炎のみの症状で、1人は目の不快感や咳の症状もあった。3人とも抗ウイルス薬の投与で症状は緩和された。
CDCは、酪農従事者への感染防止へ、生乳に触れないようにする対策をまとめた指針を作成。作業中の高性能マスクやフェースシールドなどの着用や、これらの着用時は自身の目や口、鼻に触れず、飲食などもしないよう呼びかける。
一方、ヒトに感染しやすくなるような遺伝子の変異は見られないため「ヒトからヒトへの感染の兆候はない」とし、現時点では一般市民への感染リスクは低いとみる。生乳は牛乳・乳製品に加工される過程で加熱殺菌されるため「(牛乳・乳製品の)消費者の健康リスクに懸念はない」との見解も示された。
国内発生警戒Q&Aを公表
農水省は米国での事態を受け、5月下旬に現地の感染状況や牛の症状、日本の農場での注意点などをまとめたQ&Aを公表。症状が疑われた場合、獣医師や家畜衛生保健所への相談を求める一方、日頃から野生鳥獣との接触やそのふんなどの混入を防ぐなど飼養衛生管理の徹底が重要だと呼びかけている。
北海道大学大学院の迫田義博教授は「乳牛の感染はこれまで想定されておらず、検査されてこなかっただけで従来もあった可能性がある」と指摘。「HPAIウイルスは渡り鳥によって世界中に運ばれ、日本でも起こり得る」と警戒を求めた。
(森市優)