石破氏は同日の衆参両院の本会議で首相に指名された。与党過半数割れを受けて衆院の首相指名選挙は1994年以来30年ぶりに上位2人による決選投票にもつれこみ、石破氏が221票で立憲民主党の野田佳彦代表の160票を上回った。
石破氏はこれに先立ち、政権運営への協力を取り付けようと野田氏や国民民主党の玉木雄一郎代表と会談。玉木氏は農業所得の確保に向け直接支払制度の創設を求めた。与党側の反応は「必ずしも否定的なものではなかった」とした。
江藤氏は2度目の農相就任となる。小里泰弘前農相は衆院選での落選を受け辞任した。同様に落選した牧原秀樹前法相の後任には鈴木馨祐元外務副大臣、公明党の代表に就いた斉藤鉄夫前国土交通相の後任には同党の中野洋昌元経済産業政務官を、それぞれ充てた。他の閣僚は再任した。
江藤氏は首相官邸で記者団に、農政の転換に向けて「当然、予算は増やしていただきたい」と述べた。野党の提案には「真摯(しんし)に真面目に受け止めて応えていきたい」とした。
特別国会の会期は14日まで。政府は月内に経済対策を策定し、12月上旬にも召集する臨時国会で補正予算の成立を目指す。農業では飼料高騰に苦しむ畜産経営への支援が焦点。食料安全保障や環太平洋連携協定(TPP)対策で十分な額を確保できるかが問われる。
衆院選での与党敗北で「一強多弱」の構図は一変し、第2次石破内閣にはこれまでとは違う政権運営が求められる。農政も含め野党との合意形成で難しいかじ取りが迫られる。
衆院選で躍進した国民民主党の玉木雄一郎代表は11日、石破茂首相との党首会談で農政にも言及。農業所得を確保する必要があるとして新たな直接支払制度の導入を要求した。
政権運営上、野党の協力が欠かせない石破首相は、会談後に「意見を誠実に謙虚に承りながら、あらゆることを決定していきたい」と述べた。ただ、政府・与党内には国民民主が求める直接支払制度に慎重論もあり、折り合えるかは不透明だ。
国会審議でも丁寧な合意形成が必要だ。生産費を考慮した食料の価格形成を巡る法案は来年の通常国会に提出される。野党の理解も得て円滑に成立にこぎ着けるか、江藤拓農相の手腕が問われる。
農家は生産費高騰で苦しい。時間的余裕はなく、熟議に加え迅速な対応も求められる。
(松本大輔)