構造転換へ予算確保が不可欠 農相所信 参院農水委<全文付き>
農業の構造転換に向けては、農地の大区画化や共同利用施設の再編、スマート農業技術の導入などで「強い生産基盤を確立し、人材の確保を図っていく」と述べた。
政府が2027年度以降見直すとしている水田政策については、「食料安全保障の強化を図る観点から、根本的な見直しを行う」と表明。来年3月に策定する食料・農業・農村基本計画の議論の中で、方向性を検討していくとした。政府は、転作に助成する「水田活用の直接支払交付金」などを見直す考え。
地域の生活を支える活動に使われてきた加算措置を廃止する方針を示している中山間地域等直接支払制度については、「小規模な集落の活動の継承が困難となっていることに鑑み、地域の声を聞きながら進めていく」とした。
江藤拓農相の所信表明(全文)は次の通り。
農林水産委員会の開催にあたりまして、所管大臣としての考え方の一端を申し上げます。冒頭、令和6年能登半島地震、9月の豪雨の被害によりお亡くなりになられた方々に心からお悔やみを申し上げます。また短期間で度重なる大きな災害に遭われた全ての方々にお見舞いを申し上げます。私自身、大臣就任の5日後に石川県を訪問させていただきました。被害の深刻さを直接確認し、現地の皆さまから一刻も早い復旧に向けた支援について、切実な声をお伺いいたしました。地震と豪雨からの復旧・復興を一体的に推進するため、農地・農業用施設の復旧などの総合的な支援対策を講じ、農林水産業の再開を切れ目なく支援してまいります。
以下、農林水産行政に関して、私の基本的な考え方を申し述べます。
わが国の農林水産業は、農地を守り、山を守り、漁業を通じて国境を守る、といった役割を担っている、まさに国の基であります。国民の皆さまにとってかけがえのないものです。しかしながら、わが国の農林水産業を取り巻く環境は大きく変化しています。ロシアのウクライナ侵略の際には、小麦や肥料、飼料などの価格が高騰し、国民生活は多大な影響を受け、生産現場も苦境に追い込まれました。また、基幹的農業従事者は現在、116万人でありますが、その約8割が60歳以上の方、平均年齢は約68歳であり、20年後には約30万人にまで減少することが危惧されております。基本法が制定されてから25年が経過する中で、このような環境の変化に対応し、時代にふさわしい基本法とするため、先の通常国会において、農政の憲法とされる食料・農業・農村基本法が改正されました。しかしながら、基本法はあくまで理念法であります。この理念を実現するため、まずは食料・農業・農村基本計画を策定し、それに基づく制度設計、それに必要な予算を確保することが不可欠であります。
今まさに日本の農政は大転換が求められています。このため、初動の5年間で、農業の構造転換を集中的に推し進められるよう、農地の大区画化、共同利用施設の再編・集約化、スマート農業技術の導入加速化など、計画的かつ集中して必要な施策を講じることにより、強い生産基盤を確立し、人材の確保を図ってまいります。
以下、具体的な施策を申し述べます。
食料安全保障政策については、世界の食料を巡る情勢が極めて不安定な要因を抱えている中、わが国の農地を最大限活用し、国内の農業生産の増大を図ることが重要です。その上で、安定的な輸入と備蓄の確保を図るため、輸入にかかる調達網の強靱化(きょうじんか)等に取り組んでまいります。
食料安全保障の強化を図る観点から、水田政策の根本的な見直しを行うこととします。その方向性については新たに基本計画の策定の中で議論を深めてまいります。
資材費等の恒常的なコスト増を生産者だけで補うことが困難となる中、国民の皆さまに持続的な食料供給を可能とするためにも、合理的な価格の形成が必要であります。生産、加工、流通、小売り、消費に至る食料システム全体で関係者の合意により合理的な価格の形成を推進する新たな仕組みを検討してまいります。
国内市場の縮小が見込まれる中、食料の供給能力を維持するためにも輸出を促進することで、農業・食品産業の生産基盤を確保していくことが必要です。このため、中国に対しても、日本産水産物の輸入解禁の早期実現、日本産牛肉の輸入再開、精米の輸入拡大を求めてまいります。また、輸出先国の規制・ニーズに対応した輸出産地の育成、非日系も含めた新市場の開拓、サプライチェーンの強化、優良品種の戦略的な保護・活用などを推進してまいります。
先の通常国会で成立した食料供給困難事態対策法に基づき、食料供給困難事態の判断基準等を定める基本方針について、来年春の策定を目指し、検討を進めてまいります。
環境と調和の取れた食料システムの確立が基本法の基本理念として、新たに位置付けられました。この実現に向け、化学肥料、化学農薬の使用低減や有機農業の拡大、環境負荷低減の取り組みの見える化、Jクレジット制度の活用の推進、クロスコンプライアンス等を実施してまいります。さらに先進的な環境負荷低減の取り組みを後押しする、新たな環境直接支払交付金の創設を検討してまいります。
人口減少に伴い、農業者の減少は避けられない中で、持続的な食料供給を図るためには、親元就農を含めた新規就農を促進し、それでも農業者の数が減少する場合にも対応可能な強い生産基盤が必要であります。このため、スマート農林水産業の推進による、生産性向上等を加速化してまいります。具体的には、スマート農業技術等の開発・実用化や、経営、技術等において農業者をサポートするサービス事業体の育成・確保を推進してまいります。さらに、スマート農業技術の活用と、これに適合するための生産・流通・販売方式の転換への取り組み、スマート農業技術の導入に資する農地の大区画化や、情報通信環境の整備を後押ししてまいります。
また、規模の大小を問わず、家族経営を含めた、効率的かつ安定的な経営体の育成・確保、円滑な経営継承に取り組む他、多様な農業者とともに食料の生産基盤である農地が地域で適切に利用されるよう、地域計画の策定を進めてまいります。その上で、地域計画に基づき、農地の集約化や計画的な保全、共同利用施設の再編・集約化などを進めてまいります。
農業生産活動を継続していくためには、農業・農村の基盤整備が欠かせません。農業の生産性向上や農村地域の防災・減災、国土強靭化を実現するため、水田の汎用(はんよう)化・畑地化、農業水利施設の長寿命化等を推進してまいります。さらに農村人口の減少下にあっても、営農や農業水利施設等の保全管理が適切に行われるよう、土地改良区の運営基盤の強化も含め、土地改良制度の検討を進めてまいります。
農村を支える人材を確保し、活力ある農村を次世代に継承していくため、日本型直接支払いにより地域を下支えしつつ、農泊、6次産業化、農福連携、農村RMOの形成、中山間地域等における基盤整備や、スマート農業技術の開発・実用化等を推進してまいります。特に中山間地域等直接支払いについては、小規模な集落の活動の継承が困難となっていることに鑑み、地域の声を聞きながら進めてまいります。さらに、鳥獣被害の防止やジビエへの利活用を進めてまいります。
畜産・酪農については中山間地域をはじめ、地域を支える重要な産業であり、耕畜連携などによる国産粗飼料等の生産・利用の拡大を進めるとともに、和牛の生産・供給基盤の強化や輸出対応型の食肉処理施設の整備、和牛肉の消費拡大、脱脂粉乳の需要改善に向けた取り組みを推進してまいります。また、畜種ごとの経営安定対策や金融支援などの各種施策を総合的に講じ、生産者の経営改善に向けた取り組みへの支援を行ってまいります。
家畜伝染病については10月以降、国内で高病原性鳥インフルエンザの発生が続いています。さらにアフリカ豚熱の侵入リスクがかつてないほど高まっており、最大限の警戒が必要であります。このため、飼養衛生管理の徹底を基本とした、発生予防・まん延防止対策と水際での侵入防止対策に都道府県等と連携して全力で取り組んでまいります。
食品産業については、食料システムの持続性の確保に向けた、食品事業者の取り組みを推進するための新たな仕組みを検討してまいります。また、産地・食品産業が連携した国産原材料の安定調達、フードテックなどの新技術の活用等による新たな需要の開拓等を推進してまいります。さらに、円滑な食品アクセスの確保を図るため、中継共同物流拠点の整備やラストワンマイル配送に向けた取り組み、フードバンク等を通じた食料供給を円滑にする地域の体制づくり等を進めてまいります。
森林・林業政策については、再造林等に責任を持って取り組む林業経営体に対し、森林の集積・集約化を進める新たな仕組みを検討してまいります。また、2050年カーボンニュートラルの実現に向け、路網や加工施設の整備、製材・CLTを用いた建築物の低コスト化等を通じた木材の需要拡大、担い手の育成など、川上から川下までの取り組みを総合的に進めてまいります。あわせて、森林整備や治山対策に取り組むことにより、森林吸収源の機能強化と国土強靭化を進めてまいります。さらに、花粉症対策を着実に実行してまいります。
水産政策については、複合的な漁業を推進するため、複数の魚種等を対象とできる漁業共済制度の検討を進めてまいります。また、世界第6位の排他的経済水域を誇り、大きなポテンシャルを持つ日本の水産業の維持・発展を支えるため、担い手の育成・確保や高性能漁船の導入、スマート化に向けた取り組みを進めてまいります。さらに、漁村の活性化に向けて、インバウンドの需要開拓や、地域資源等を活用する海業の全国展開を推進してまいります。あわせて、海洋環境の変化に対応するため、水産資源管理を着実に実施するとともに、漁業経営安定対策を講じつつ、新たな操業形態への転換、輸出拡大等、水産業の成長産業化を実現してまいります。また、アルプス処理水放出を受けた一部の国・地域による科学的根拠なき輸入規制の撤廃を求め、水産事業者の取り組みへの支援に引き続き万全を尽くしてまいります。
東日本大震災から13年9カ月が経過しました。原子力災害被災地域において、依然として営農再開や水産業・林業の再生、風評払拭等、取り組むべき課題があります。引き続き万全の支援を行ってまいります。以上、農林水産行政の今後の展開方向について、私の基本的な考え方を申し上げました。
わが国の農林水産業を生産者の皆さまがやりがいと希望、夢を持って働ける産業としていくとともに、その生産基盤を次の世代に着実に継承していくことは、国家の最重要課題であります。そのために私自身も機会のあるごとに現場に足を運び、さまざまな方々の声に耳を傾け、両副大臣、両政務官、そして全職員一丸となって、時にはこれまでの殻を破る大胆な政策転換にも挑み、これからの課題に取り組んでまいります。舞立委員長をはじめ、理事・委員各位に重ねてご指導・ご鞭撻(べんたつ)を賜りますようお願い申し上げ、私のごあいさつとさせていただきます。