生産者:米作りの未来考える契機に
都市住民が米作りを援農し、収穫した米をお礼としてもらう「水田オーナー制度」が注目を集めている。米の価格が上昇する中、米を自ら作り、割安で手に入れたいという消費者ニーズの高まりが背景にあるとみられ、各地で申し込みが相次ぐ。一方、受け入れる農家らは「持続可能な米作りを消費者と考える契機にしたい」と期待を込める。
農水省の棚田遺産に認定される岩手県遠野市にある旧宮守村棚田。2022年に始まったのが「宮守棚田funファンクラブ」だ。年間3000~1万円を払って会員になると、農業体験に参加でき宮守の米や特産品がもらえる。
23年の会員は数人だったが、24年は20人まで増加。今年はさらに増える見通しだ。棚田を管理する宮守川上流生産組合の菊池文彦さん(60)は「関係人口となる棚田ファンとつながりたい」と話す。
水田オーナー制度は1992年に高知県梼原町で始まり、全国に広がった。今年は例年以上に人気が高く、制度に取り組む関東のJAによると、「問い合わせがとても多い」。背景には米価上昇があるとみられる。制度を利用する千葉県の30代男性は「米の値段が上がる中で、オーナーになれば安定的に米を入手できる」と語る。
愛媛県大洲市の樫谷棚田保存会は、10年前から棚田オーナー制度を始めた。100平方メートル年間3万円でオーナーになり、田植えや稲刈りなど援農し、出来秋には米25キロと野菜セットをもらえる。
10年前は親子10組程度の参加だったが、現在は35組程度になった。農家の城本誠一さん(65)は「米が高いとか不足とか表面上のことが注目されるが、消費者と共に持続可能な米作りを一緒に考えたい」と願う。
今年から水田オーナー制度を始める滋賀県日野町では、年末年始の4日間で40人の定員が埋まった。米農家の西河正樹さん(55)は「想定以上に短期間に人が集まった」と驚く。「数年前の米価では再生産できず、子どもに稲作を継いでほしいと言えなかった。今後米価が下落しても買い支えてくれるよう、消費者とつながっていきたい」と考える。
(尾原浩子、藤平樹)