宮崎県に取材すると、県内で被害が多発し、詳細を調査している最中だという。近県にも聞くと、3月に大分でキャベツ、徳島でブロッコリー畑などに群れで襲来し、九州と中国、四国地方で例年より大きな被害が出ていることが分かった。
4月上旬、愛知県西尾市の野菜農家から「今まさにヒヨドリが畑に来て困っている」との情報を入手し、記者は農家の元を訪れた。

「キーッ!」。40アールで約20種類の野菜を生産する大嶽繁高さん(75)の畑に足を踏み入れると、数羽のヒヨドリが鳴き声を上げながら飛び立ち、近くの木に逃げ込んだ。
大嶽さんによると、3月上旬に100羽ほどの大群が襲来し、野菜が食い荒らされた。ブロッコリーは葉を食べられたことで成長が止まり、花蕾(からい)の大きさはいつもの半分にとどまった。
大嶽さんは毎年、対策として防鳥糸を張るが、今年は糸の間から侵入。5センチ目合いの網に替えても、くちばしを入れて食べていたという。「肥料が高騰する中で育て、やっと収穫するところだった。憎たらしい」と悔しがる。かろうじて残ったブロッコリーに、防寒や風よけに使う不織布をかけ、被害は落ち着いた。
同市を管内に持つJA西三河によると「ヒヨドリの食害は毎年あるが、今年は桁違いに多い」(指導販売課)と話す。管内で業務用キャベツを契約栽培する農家には余分に作付けしてもらっているが「大規模農家もヒヨドリの大群に襲撃された。数量を確保できるかギリギリの状況」と困惑する。

餌求め数百羽に 甘い作物が好物
日本全土で生息。灰色の毛に覆われ、頬は茶色。長い尾を入れた全長は約28センチで、スズメより大きくハトより小さい。
9月から翌年3月は餌を求めて南下する。基本的に群れないが、餌を求め、一時的に畑に数百羽集まることがある。4~8月はそれぞれの繁殖地に戻る。
糖度があるものを好み、普段はハマヒサカキなどの液果、花の蜜を食べる。餌が少なくなる1~3月はかんきつ類と、キャベツ、ブロッコリーなどのアブラナ科野菜を食べる。初夏はサクランボやブルーベリーを狙う。

隠れ家の木伐採を
農研機構動物行動管理研究領域の山口恭弘研究領域長によると、音やグッズによる脅しは数日で見破られる。長期的に効果がある対策は二つある。
一つは圃場(ほじょう)周辺で、ヒヨドリの隠れ家となる樹木を伐採すること。ヒヨドリは天敵の猛禽(もうきん)類を警戒し、樹木に身を隠して過ごす。地面に降り、農作物を食害する時間はわずか。隠れ家がない平場は苦手だ。「不要な木や防風林は伐採した方が良い」(山口研究領域長)。山林に隣接した圃場への作付けを避けることも有効だ。
二つ目は網目の細かい防鳥ネットや不織布で作物を覆うこと。費用がかかる、労力が必要などデメリットはあるが、侵入を徹底的に防ぐことで効果は高いという。
畑の野菜をむさぼり食うヒヨドリ。収入も生産意欲も奪い、農家には死活問題だ。全国の被害金額は毎年約3、4億円だが、数年置きに6億円超と甚大な被害をもたらしている。農産物が狙われる年の傾向は分かっておらず未解明な部分も多い。
まずはヒヨドリの生態を解明し、発生予測ができないか。取材した大嶽さんは高齢で、息を切らして不織布をかけていた。労力をかけず有効な対策が急務となる。
(文・写真=高内杏奈)