[論説]WCS用稲拡大 耕畜連携で自給強化へ
WCS用稲は、牛の体を作る上で欠かせない粗飼料。作付面積は4万3000ヘクタール前後で推移していたが、米価低迷や輸入飼料高騰で近年、生産が急増している。
生産増の背景には畜産、耕種農家それぞれの理由がある。畜産農家側から見ると、輸入乾牧草の高騰が大きい。直近8月の1トン当たりの価格は5万9000円。高騰前の20年と比べ5割高で、輸入乾牧草の代替として活用が進む。
耕種農家側から見ると、水田活用の直接交付金の見直しが要因とみられる。24年産から飼料用米を一般品種で栽培する場合、交付単価は段階的に引き下げられる。それに備え、交付単価が下がらないWCS用稲へシフトしている。
畜産の需要増、耕種農家の生産増を受け、日本農業新聞は、WCS用稲の動向を取り上げた企画「WCS今を探る」を展開した。主食用米より穂が短く、もみ数が少なく消化が良い「極短穂品種」の導入が進んでいることや、収穫方法や乳酸菌の活用で高品質なWCS用稲を生産する取り組みなどを紹介した。
注目したいのは、畜産農家に求められるWCS用稲を栽培しようと生産作業履歴を基に課題改善し、信頼を構築する岩手県の事例だ。品質に問題があった場合の原因を特定するため、ロールごとに番号を付け、畜産農家から苦情があると、作業履歴を確認して改善を繰り返している。
作るだけで終わらない、高い品質を追求する姿勢が畜産農家に評価され、14ヘクタールだった栽培面積は66ヘクタールに拡大した。こうした連携を広げたい。
WCS用稲の生産には、耕種側は1台1000万円以上する専用収穫機の購入など大きな投資が伴う。一方の畜産農家も飼料代や畜産物の販売価格、安定して入手できるかなどを踏まえ、導入を判断する。生産基盤を維持し、耕種農家と畜産農家が息の長い関係を構築するには、双方の信頼が重要だ。
22年度の飼料自給率は26%にとどまり、「30年度に34%」とする政府の目標とは隔たりがある。一方で粗飼料自給率は78%と21年度比で2ポイント上昇した。輸入飼料の価格高騰が続く中、飼料の国内生産を増やし、自給体制を強化することは食料有事への備えにつながる。
食料安全保障を確立する観点からも、政府は耕畜連携の取り組みを継続的に支援することが必要だ。