[論説]低調な農業者労災保険 要件緩和し加入促進を
労災保険は、労働者の事故や病気を対象にした公的保険だが、個人経営の農業者も任意に特別加入ができる。農作業や農機使用中の事故を対象にしたJA共済は、その上乗せ保障の意味を持つ。傷害共済のきめ細かな対応と併せ、労災保険の特別加入は療養・休業給付、遺族給付まで手厚い補償が受けられる。だが、低い加入率や補償範囲の問題もあり、公的保険としての役割を果たしていない。
日本農業労災学会が先月、特別加入制度の現状と課題をテーマに開いたワークショップでも、問題点が浮き彫りになった。東洋大学の田中建一講師によると、2020年の自営農作業従事者の死亡者数253人のうち特別加入は15人に過ぎなかった。要因の一つが厳しい加入要件と補償範囲の狭さだ。
特別加入の主な種類は「特定農作業従事者」と「指定農業機械作業従事者」。前者は、経営面積2ヘクタール、または年間販売額300万円以上が加入要件で、営農集団単位でも受けられるが壁は高い。しかも、2メートル以上の高所作業の場合、それ未満の事故は補償の対象外となる。田中講師は、加入制限の撤廃や一般農作業も補償範囲に含めるよう求めており、早急な改善が必要だ。
さらに改善を要するのが暫定任意適用事業という農業独特の措置だ。農業の場合、労働者が常時5人未満の個人経営なら、労災保険が任意加入となる。企業のように労働者を1人でも雇えば、労災保険加入を義務付けるべきだ。
そもそも農業者は、労働基準法が定める労働時間や休日規定の適用から除外されており、そのことが労働法規とのズレを生んでいる。厚労省は、いずれも農作業の実態に即したものという立場だが、暫定任意適用事業は、労働者保護の観点からも見直しが急務だ。今秋からはフリーランスの全業種に特別加入の道が開ける。農業分野も連動して制度改善を進めるべきだ。
先のワークショップでは推進体制も課題に上った。普及には、JAなどの労災保険加入特別団体が窓口となるが、専任体制を敷けずうまく機能していないのが実態だ。
不慮の事故に備え、JA共済と共に労災保険特別加入を関係者一丸で周知しよう。その上で、農業者向けのこの公的保険をより使い勝手のいい制度にし、加入を進めることが、持続可能な農業経営につながる。