[論説]政府の「骨太方針」 食料安保へ予算万全に
改正基本法は5月29日に成立し、6月5日に公布、施行された。政府は今後、改正基本法に基づき、中長期の農政指針となる「食料・農業・農村基本計画」の検討を始め、25年3月に策定する。25年度は、新基本法の下での新たな農政が始まる。
改めて予算の適正規模を問いたい。農林水産予算は基本法が制定された1999年度は、当初と補正で計4兆154億円あった。だが、直近の2023年度は3兆865億円と2割も減った。同時期に防衛関係費が1・6倍に増えたのとは実に対照的だ。
日本は食料に加え、肥料や飼料、燃油といった生産資材の多くを輸入に依存する。世界的な需要増や円安に伴う食料、資材価格の上昇は一過性のものではないとの見方が多い。農業生産の基盤である水利施設や乾燥調製施設の老朽化は進み、更新は待ったなしだ。土木・建築資材や人件費も上がる。既存の予算規模では以前のような政策効果は期待できないのは明らかだ。
政府が法改正に踏み切ったのも、国内の食料危機が絵空事ではないとの認識からだろう。国会審議では、平時から生産基盤を確保する重要性も確認された。よもや、強い円が戻り、資材価格もいずれ下がるといった淡い期待を基に従来通りの予算を組むことはあるまい。
改正基本法は基本理念に、新たに「農業の生産性向上及び農産物の付加価値の向上」を明記し、農業の成長路線を鮮明にした。これを踏まえ、骨太方針は「農林水産業の収益力向上の実現を通じた所得の向上を図る」とした。
だが、実質の農業産出額は減少が続く。経営環境は厳しさを増し、政府が担い手と期待する農業法人の倒産件数もかつてない多さだ。具体的にどのように農業を成長軌道に乗せ、経営を安定させるのか。基本計画検討の際は徹底した議論を期待したい。
一方、生産性の向上や成長路線は聞こえはいいが、将来の財政抑制にも結び付きやすい。骨太方針は「初動5年間で農業の構造転換を集中的に推し進め」るとした。予算確保の本気度を示したものと理解したいが、気になるのは「5年間」と区切ったことだ。
1年1作が基本の農業の構造転換は一朝一夕にはいかない。食料安保の強化には、長期的な視野で当初予算を安定的に確保することが重要だ。