[論説]食育白書と農業 地域連携で理解促そう
白書は「農林水産業に対する国民理解の醸成」を特集、農業体験などの食育や地産地消の取り組みを官民が協働して進めるべきだと指摘した。
世界的な人口増や気候変動による食料逼迫(ひっぱく)、資材価格の高騰で、食料安全保障のリスクは増している。このような時こそ国産や地場産を食べて支える消費者の役割は高まっている。だが、「農林漁業体験を経験した国民の割合」は目標の70%に対して63・2%と3年間で2・5ポイント下がり、実体験が減っている。
自分たちの食べ物がどのように作られているのか、生産現場を知る機会がなければ、食への興味は湧きづらい。「産地や生産者を意識して農林水産物・食品を選ぶ国民の割合」は67・4%と6・1ポイント減、「環境に配慮した農林水産物・食品を選ぶ国民の割合」も60・2%と6・9ポイント減った。物価高騰が加わり、購買行動へ影響が出ている。
JAは女性部や青年部が中心となって親子を対象に田植えや料理教室など多彩な農業体験を展開する。食育は、子どもたちのしなやかな心に農の種をまく。大切な取り組みで今後も続けてほしい。
一方、活動が負担でマンネリ化が課題となっている場合は、地域の関係者との協働を模索してはどうだろうか。
JA東京むさしでは農家や学校、栄養士、市役所などとコミュニケーションを密に取り、小・中学校の給食に使う青果の地場産率を30%以上に高めた地区もある。給食向けの品種導入や「プラス1畝」の作付け増、農業体験、JA職員の出前授業も行う。農業と食育の同時振興という明確な方針が活動を支える。
地場産麦を使った麦ご飯、イノシシ肉などを活用したジビエ、乳製品など地域の特産を生かした給食や食育も有効だ。白書では、「郷土料理や伝統料理を月1回以上食べている国民の割合」が目標の50%を上回り、食にまつわる物語を求めていることがうかがえる。
文部科学省は、学校給食への地場産食材の活用を促そうと、課題解決のための経費を支援している。栄養教諭の配置も増え、助成や人材をうまく活用したい。
コロナ禍を経て食育活動が各地で復活する中、家庭で余った食品を寄付する「フードドライブ」や子ども食堂が各地に増えている。食をきっかけに地域が連携し、農業の理解者、支援者を増やそう。