[論説]多様な農業者の力 農福連携に学生加えよう
農政の憲法とされる改正食料・農業・農村基本法には、望ましい農業構造の確立に当たり「効率的かつ安定的な農業経営を営む者」に加え、新たに「多様な農業者」という文言が入った。中核的な担い手だけでなく障害を持った人や移住者、地域おこし協力隊、住民、学生など多様な人が協力し農地を維持するのが狙い。作る人、食べる人の垣根を低くし、誰もが農業に携われる仕組みをつくりたい。
中でも、障害者が農業分野で活躍する「農福連携」の取り組みは増えている。農水省によると2022年度は、前年度より15%増加し、6343件となった。政府は30年度までに1万2000件に倍増させる方針で、作業工程のマニュアル化や移動式トイレの導入など、働きやすい環境整備を支援する。
生協が主体となった農福連携も始まっている。生活クラブ「虹と風のファーム」は、千葉県八街市で農地6ヘクタールを借り、ラッカセイや野菜などを栽培し、生協や地元直売所などに出荷する。「農家の高齢化や後継者不足で遊休農地予備軍は多い。ここ5年で農の風景は大きく変わってしまうだろう」と同ファームの田邊樹実相談役。農業に福祉を取り入れようと、ファーム内に就労継続支援B型事業所を設立。「ローカルSDGs八街構想」を掲げ、多様な人々が行き交う共有空間(コモンズ)をつくり、食と農の問題解決を進めたいと展望する。
課題は生協の組合員や障害者など、多様な農業者を受け入れる環境が整っていないことだ。提案したいのが、農業と福祉、学生がつながる「農福学連携」。温暖化の影響で環境への意識が高い学生や、不登校などで生きづらさを抱える子どもたちは多く、農の世界に受け入れたい。
共に作業をしながら農業や福祉の今を知り、将来の仕事選びのきっかけにもなろう。学生が地域との橋渡し役になることも期待できる。立正大学の横山和成客員研究員は「子どもたちの最善の教育の場は、自然と調和した農の現場にある」と提起する。
昨夏には、全国農福学連携推進協議会が発足した。代表理事の情野雄太郎さんは、「農を通じて生きる力、心の安定を得る」ことをコンセプトに埼玉県白岡市で「寺子屋えん」を始動させた。多様な人が土でつながれば農業の理解者、応援団はきっと増える。