[論説]農産物の価格転嫁 コスト「見える化」急げ
生産者の段階で要する資材などの経費を、最終的な小売価格にどれだけ反映させるのが妥当なのか。同省によると、主要青果物16品目の小売価格に占める生産者受取価格の割合は、直近の2022年度で48・5%。前回の17年度に比べてわずか1ポイント上昇したが、依然として5割を下回った。流通経費で最も割合が大きい小売経費は19・9%を占めた。
5年に1度の食品流通段階別価格形成調査で分かった。同省が価格形成の仕組みづくりに向け、現在進めているコスト構造調査の参考となる。実需との価格交渉や直接販売をする際の値決めの判断材料として、自身の出荷品目の現在値を把握しておきたい。
品目別では、22年度に卸売価格が高騰した品目ほど流通経費が下がり、生産者の受取割合が増えていた。例えば不作で高騰したタマネギは、生産者受取割合が43・9%と、前回比で6・4ポイント増えた。逆に相場が低迷したハクサイは、小売価格も生産者受取割合も下がった。価格低迷は農家の持続的な生産を阻む。相場任せでは農業経営が立ち行かなくなる局面に達しており、一定の価格上昇は欠かせないことがうかがえる。
川下も含めた供給網全体での価格転嫁も必要だ。同省は23年、生産から消費までの各団体関係者が集まる協議会を設置。生産コストの上昇に小売価格の上昇が追い付かず、供給の持続性が危ぶまれている牛乳、納豆、豆腐から議論をスタートした。青果や食肉も適正な価格形成へ、来年の法制化を目指している。
小売業界は価格を協議すること自体に抵抗が強かったが、24年4月に、適切な価格転嫁を新たな商習慣として、供給網全体で定着させるという共通認識を得た。協議会委員からは「どこかにしわ寄せが発生しないような仕組みを目指すべきだ」との意見も出た。
食料供給網全体での適正な価格転嫁は、近年拡大する業務用でも重要だ。食品産業でも、小売業者への販売でコスト上昇分を全て転嫁できた割合は55・1%(23年度)で、依然半数近くが十分に転嫁できていないことが食品産業センターの調査で分かった。
小売りのバイイングパワーは絶大で、価格改定を要請してから実現までに9カ月以上かかった例もある。コスト構造を明らかにし、価格転嫁を実現することが持続可能な農業への一歩となる。