[論説]窮地の和牛経営 消費拡大で畜産支援を
課題は、国産牛肉の消費低調にある。総務省によると、2人以上世帯の牛肉の支出額は2万1449円(2023年)と前年より4%減った。減少は3年連続だ。物価高で消費者の節約志向が強まり、価格の高い和牛の肉を買い控えていることが背景にある。値ごろ感のある国産豚肉や鶏肉への支出は増加している。
和牛の枝肉相場は低迷すれば、肥育農家の導入意欲も下がり、子牛の価格下落に直結する。一方で飼料など生産資材の高騰が続き、繁殖、肥育農家ともに生産コストが上昇し、消費、生産ともに二重苦の状況が続き、対策を求める声が高まっている。
農畜産業振興機構によると、6月の全国の子牛平均価格は雌46・5万円、去勢58・9万円。前月よりいずれも約5000円下がり、過去1年間の平均価格を下回った。顕著なのが沖縄県だ。子牛1頭当たりの生産費は県内では約55万円かかるが、6月の平均価格は雌41・2万円、去勢53・1万円と生産費割れの状況だ。特に離島は本土への輸送コストがかかるため、9割を占める県外からの子牛の購買者が、せりに足を運ばなくなっている。黒島家畜市場(竹富町)の7月子牛せりでは、雌平均で30・6万円、去勢38・3万円と経営継続が危ぶまれるレベルだ。
JAグループ沖縄などでつくる沖縄県生産資材高騰対策本部は、500人規模の生産者大会を開き、坂本哲志農相らに窮状を訴えた。
打開に向けて求めたいのは、生産現場への支援や適正な価格形成に加え、和牛肉の消費拡大を促す支援だ。JAみやざきは7月、4億6000万円規模の独自対策を発表。宮崎牛の消費拡大に向けて、正組合員4万7000人に対して5000円分の商品券、准組合員約10万人に対し2000円分の割引券を配布する。ただ、宮崎県だけの支援では効果は限定的だ。物価高で家計が苦しい消費者でも購入できるように全国的な和牛肉の消費拡大支援が必要だ。
畜産は初期投資が大きく、就農のハードルは高い。生産基盤が一度弱体化すれば、回復は容易ではない。耕畜連携にも影響が出かねない。「畜産農家がいなくなれば、地域はなくなる」(JA宮崎中央会・栗原俊朗会長)。農業を持続できなければ食料安全保障は確立できない。国は現場の声に耳を傾けるべきだ。