[論説]相次ぐ窃盗被害 できることから自衛を
警察庁は2020年から「田畑」での窃盗事件の認知件数を集計している。20年は3225件、21年は3111件、22年は2963件に上り、各年とも約9割を占めるのが、農作物を含めた「非侵入盗」だ。だが、実際の被害はさらに多いとみられる。作物が狙われやすい収穫期は、農家にとっては繁忙期。地元警察に通報し、捜査や聞き取りに協力する余裕は持ちにくく、通報せずに泣き寝入りするケースがあるためだ。
警察によるパトロールなど効果的な防犯対策を行うためには、十分な実態把握が必要だ。長野県内では、農家の負担を考慮し、JAが農家に代わって、盗難被害に遭った作物や場所などを警察に報告している。警察は報告に基づき、重点的に見回るエリアを設定している。各産地で参考にしたい取り組みだ。
被害の未然防止へ、個別の農家で取り組めることもある。窃盗犯は、犯行直前だけでなく、収穫適期の見定めや逃走経路などを確認するため、事前の下見に来ることが想定される。警察は、不審な人を見かけたら「まずはあいさつをしてほしい。犯行を思いとどまらせる効果もある」と指摘する。
収穫物や農機を農地に置きっ放しにしないことも重要だ。「盗める」という思いを想起させ、窃盗を誘発しかねない。交流サイト(SNS)で圃場(ほじょう)の様子を安易に発信することにも注意が必要だ。周辺の風景などから圃場の場所が特定され、狙われる可能性もあると、複数の県警が警鐘を鳴らしている。
費用はかかるが、効果的な対策として多くの県警が挙げるのが、防犯カメラだ。夜間でも撮影可能な機種や、センサーライトを備え侵入者に警告する機能があったり、映像をスマホで即時に確認できたりする機種もあり、機能性も重視して導入を検討したい。「防犯カメラ作動中」と看板などではっきりと掲示し、警告するのも大切だ。
被害は作物にとどまらず、トラクターやミツバチなどでも確認されている。農業法人の作業場などから土壌燻蒸(くんじょう)剤や殺虫剤が大量に盗まれる事件も起きている。警察によると、大量の窃盗は転売目的の可能性があるという。農薬は施錠して保管するという基本に立ち返ることは防犯の面からも重要だ。改めて徹底しよう。