[論説]有機農業推進の課題 参加型認証を広げよう
一般的な有機JAS制度は、農水省の登録機関だけが認定できる仕組みで、農家にとって書類作成などの手間やコストがかかるのがネックだ。有機JAS認証を取得した面積は1万5300ヘクタール(21年度)と、ここ10年で5800ヘクタールしか増えていない。
PGSは、有機JAS認証と比べて費用が安価で、農家と消費者らが生産過程を共に確認し、認め合う仕組み。2022年の世界の認定生産者数は、前年比10%増の133万人と過去最高となった。気候変動が進む中、環境負荷を低減する取り組みとして、各国が国策として取り組んでいることが背景にある。
日本でも18年、岩手県雫石町の「オーガニック雫石」が、初めてPGSを取得して以来、千葉県市川市や埼玉県小川町、名古屋市などでもPGSの取得に向けた取り組みが進んでいる。認証システムの多様性を担保する上でも、一層の普及につなげたい。
課題は「語学」にある。IFOAMとの業務連絡は全て英語で、オーガニック雫石の場合、英語に堪能なメンバーが取り組みをまとめて報告しているが、後継者がいないため、持続性が懸念される。多様な人材の確保が必要だ。
技術の確立も求められる。オーガニック雫石では18年に町内の6農家が、計2ヘクタールの農地でPGSを取得したが、高齢化で農家は5人に減った。技術不足で所得は「慣行農業の半分程度で、年金がないと続けられない」という。
農水省は、みどりの食料システム戦略で有機農業の推進を掲げる。専業農家だけでなく定年退職者や移住者、地域おこし協力隊の若者ら多様な人材が有機農業に取り組める環境整備が急務だ。
同省が20年に定めた有機農業の推進基本方針によると、30年までに6万3000ヘクタールに拡大する目標を掲げ、25年を目途に「中間評価を行い、見直しを検討する」としている。だが、21年度の有機農業の面積は前年比5%増の2万6600ヘクタールで、耕地面積の0・6%にとどまる。このペースで50年に、耕地面積の25%(100万ヘクタール)に到達できるのか。国の本気度が問われる。
新規就農者数は、22年は約4万5800人と減り続ける。来年に控えた有機農業の推進基本方針の中間評価では、オーガニック雫石などの事例を参考にしながら、多様な人が有機農業に参画できる環境整備が求められている。