[論説]逼迫する米需給 水田農業の展望示す時
米は猛暑による等級低下で精米の歩留まりが悪化し、需給が引き締まる。スーパーでは「お一人さま1点まで」などと掲示された店舗が目立つ。気象庁が南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)を発表すると、消費者の不安がより高まったようだ。
過去にも東日本大震災や新型コロナ禍で、一時的に米の買いだめが発生した。主食の米が入手しづらくなると社会に混乱が広がるが、24年産米が出回る頃には騒ぎは沈静化し、危機感は薄れてしまう。だが、一過性の問題として今回の米需給逼迫(ひっぱく)を片付けてはならない。
農家の高齢化や農産物の価格低迷で、生産基盤の弱体化は進んでいる。23年産の主食用米の面積は124万ヘクタールと10年前から18%減少した。減少幅は東北・北陸などの主産地が1、2割減なのに対し、西日本は3割も落ち込み、地域差は大きい。各県は毎年、減少する需要に合わせて生産量の目安を設定し、いかに供給を抑えるかに苦心してきた。だが、西日本の産地では「生産力が落ち、生産目安を示しても、もはやそれに届かない」と切実な声が上がる。
都府県では、販売目的で作付けした水稲の農業経営体数は56万7000戸(23年)と10年前より45%も減少した。担い手への農地集約が進むも、生産力や農地の維持は難しくなっている。米卸でつくる全国米穀販売事業共済協同組合は、30年代に米需要を国産だけで賄いきれなくなる恐れがあると警鐘を鳴らす。
生産者側にとっても米はもうからない品目となり、若い後継者の確保は難しい。再生産可能な米価水準は不可欠だが、急激に上昇すれば今度は消費減の懸念がある。米価の上昇局面にある24年産は、その“落とし所”を探りたい。
これまで米政策は、需給調整に追われ、長期的な展望を描けずにいた。そうした中、農水省は、食料・農業・農村政策審議会食糧部会を27日に開く。例年にない時期の開催で、生産・需要の長期動向について議論する。直近の需給に関する指針策定を目的した従来の会議とは性格が異なり、注目したい。
今後、食料・農業・農村基本計画の改定に合わせ、政府は水田政策を見直す。焦点の「水田活用の直接支払交付金」では財政負担ばかり強調されるが、窮地に陥る水田農業をどう維持するか、大局的な視点に立つ必要がある。