[論説]新たな基本計画の策定 食料安保へ予算万全に
岸田文雄首相は6月に開いた政府の「食料安定供給・農林水産業基盤強化本部」で、夏に基本計画改定の議論を始めるよう、坂本哲志農相に指示した。基本計画改定の議論は近く始まるが、来年3月末まで残り半年余りしかない。異例の米不足に直面する中で、持続可能な農業農村の未来像をどう描くのか、注目したい。
改正基本法の内容をまとめた農水省の食料・農業・農村政策審議会基本法検証部会でも、基本計画改定の前哨戦となる議論はあった。だが、食料や農業を巡る情勢は刻々と変わり、データや議論のアップデートは不可欠だ。
9月末に控える自民党総裁選など今後の政局が不透明となる中、新総裁によっては基本計画の内容に影響が及ぶ可能性もある。政府として“見切り発車”をしにくい事情もあるのだろうが、所得減に苦しむ現場の声を十分に反映した丁寧な審議は欠かせない。
焦点となるのが、施策の裏付けとなる予算確保だ。政府の経済財政運営の基本指針「骨太の方針」は、初動5年間を「農業構造転換集中対策期間」と位置付けることを明記した。2025年度予算は集中対策期間元年の予算となる。25年度農林水産関係当初予算を思い切って拡充し、補正予算を含めて、農家が安心して農業を続けていける万全な財源を確保すべきだ。
「農は国の基なり」。生産基盤を守れないで国民に食料の安定供給はできない。国の安全保障も成り立たない。担い手不足、中山間地域をはじめとする農村の弱体化は深刻で立て直しは急務だ。
現行の基本計画は、30年度にカロリーベースの食料自給率を45%に引き上げる目標を立てたが、この十数年間は38%前後と低迷が続く。45%の目標には程遠く、次期計画では多様な担い手の確保や農村政策の抜本的な強化など具体的な道筋を示してほしい。
米政策の検証と見直しも必要だ。米価格や24年産米の概算金はスポット市場の値上がりに呼応するように大幅に上がっている。米価低迷で苦しんできた農家には朗報だが、今後需給が一転して緩み、乱高下するような事態は避けねばならない。農家が将来展望を描け、必要な投資を行える適正な価格水準が必要だ。
美しい田園風景を国民の宝として、国を挙げて守る施策を展開してもらいたい。