[論説]農高教員の教育手当 激務に見合った待遇を
産業教育手当は、農業をはじめ水産、工業、商船の産業教育に従事する公立高校教員と実習助手の勤務の特殊性に配慮し支給されている。現在この手当が満額支給されているのは山形、山梨、三重、兵庫の4県。本来の10%水準の半分以下の都道府県は全体の3分の1に上る。鳥取県はゼロだった。地方の財政難で教員の待遇悪化は常態化していることが分かった。
ただ、農業高校の教員は、農業の担い手を育てる欠かせない存在であり、早急な満額支給を求めたい。
農高の教員は重労働だ。授業前や終業時間後、夏休み中も作物の生育状況を見回り、家畜の飼育などの実習や農場管理も担っている。残業代のない教員にとって産業教育手当は、数多くの負担を経済面で補償する意味合いがある。
だが2003年以降、同手当の権限が文部科学省から地方自治体に移行したことがきっかけで、財政上の問題で条例に基づいて手当を減額する都道府県が相次いだ。同省は「手当となる給料月額の10%を普通交付税で措置している」(初等中等教育局参事官)として、都道府県教育委員会に適切な対応を求めたが、状況は改善していない。
農高が加盟する全国高等学校農場協会は6月、支給水準の10%復活を求めて要望書を国に提出。同協会の橋本智会長は「農業高校は担い手育成に大きな役割を果たしている。教員の質確保のためにも、本来の10%を復活させてほしい」と訴える。各自治体は、こうした現場の声に耳を傾け、命と食を育む農業教育をもっと重視すべきだ。
手当ゼロの鳥取県立倉吉農高の田中慎一教諭は、朝5時前から実習準備を始め、搾乳や給餌、集乳の立ち会いなど、教育者だけでなく、農場を預かる生産者としての重責を担う。こうした教員らの使命感や責任感に甘んじて、本来必要な手当を支払わずにいれば教員が足りなくなるのは明らかだ。同県では、昨年の教員採用試験で内定者の半数以上が辞退している。
同県教育委員会は、手当をゼロにした理由を「財政難」と説明する。財政難は理解できるが、農高教諭が意欲を持てる水準に引き上げなければ、農業の担い手は育たない。
人づくりは、時間もお金もかかる。中長期的な視点に立って農高教員の確保へ、手当の拡充を求めたい。