[論説]子ども食堂に備蓄米 食料安保へ活用さらに
岸田文雄首相は8月27日の食料安定供給・農林水産業基盤強化本部で、備蓄米の運用に言及した。政権が重視する物価高対策の一環として、食品の入手が難しい状況の改善は「喫緊の課題」と位置付け、対応を指示した。
経済格差の拡大や子育て環境の厳しさなどから食事を十分取れない子どもたちには、子ども食堂やフードバンクなどによる民間支援が広がっており、同省も政府備蓄米の無償交付を2020年度から始めた。初年度の交付数量は213件17トンで、23年度は486件140トン。増えてはいるが、100万トンある備蓄米の全体数量から見れば、わずか0・01%に過ぎない。
今回強化したのは、あくまで交付申請の受付体制だ。これまで受付は全国10カ所に限られていたが、各都道府県にある同省の地域拠点51カ所を追加した。申請を受け付けるタイミングも、年4回から通年とした。利用しやすくなれば、交付する備蓄米の数量が増えることが期待できる。
だが、受付拠点を広げただけでは不十分だ。改正食料・農業・農村基本法は、食料安全保障の定義を「国民一人一人が食料を入手できる状態」とし、その確保の必要性を掲げた。経済的な理由などで栄養を十分確保できていない子どもたちへの支援を、もっと強化すべきである。
日本とは政策体系が違うものの、米国は農務省予算の大きな柱として、補助的栄養支援プログラム(SNAP)、いわゆるフードスタンプを実施し、低所得層に食品購入の金券を給付している。長年続く政策で、民主・共和党間で予算額を巡る対立はあっても、廃止する議論にはなっていない。米国内の食料安保を支える政策として、必要性は広く共有されている。
中長期的には経済格差を縮める必要があるが、農政としてできることは、栄養摂取が不十分な子どもたちを減らすことだ。金券ではなく現物給付で、政府備蓄から主食の米をもっと活用するよう、踏み込んだ対策を取れないか。
食料安保の確保には、難しさを伴う。低所得層は安価な食品を求めるが、それでは農業経営は成り立たず、食料安保は危うい。適正な価格形成が大きな焦点になっているのは、そのためだ。食料安保の確保へは農畜産物の適正価格の実現と、困窮世帯への食料支援強化の両立が必要だ。