[論説]自民総裁選スタート 食と農の未来図を示せ
総裁選の立候補者は過去最多となった。「脱派閥」「刷新」「党改革」などを旗印に、多様な人材が乱立する構図となった。「政治とカネ」の問題にメスを入れ、日本再生のビジョンを示す論戦を期待したい。なにより透明、公正で国民に開かれた総裁選でなければ、党再生などあり得ないと知るべきだ。
裏金問題では、うみを出し切り、抜け道を防ぐため政治資金規正法の再改正、ブラックボックス化している政策活動費の見直しなどを断行することが信頼回復の一歩だ。早く内向きの議論から脱し、物価・経済、社会保障、農業・農村振興、外交・安全保障など国民の生命、財産に関わる喫緊の課題への対応策を論じるべきだ。中長期的には、人口減少下における国の将来像を提示することが肝要だ。
各候補は「改革と刷新」を競い合い、政策の独自色を打ち出すのに腐心する。だが、本格論戦を前に「選挙の顔」選びの様相が強くなってきた。近づく総選挙に勝てる「顔」を立てることが判断基準なら本末転倒だ。新政権下での早期解散を明言する候補者もいて、にわかに「解散風」が吹き始めたが、政策を積み上げ、その実績を国民に問うのが筋ではないか。
農政課題は山積しており、政治の遅滞は許されない。各候補者の農業・農村政策には濃淡があるが、総じて踏み込み不足だ。現下の「米不足」騒動が露呈した水田農業の危機、経営難で離農が続く畜産・酪農など、生産基盤の弱体化は深刻さを増している。
資材高騰を適正に反映できる価格転嫁の法制化も急がれる。再生産が保証されてこそ農業・農村の持続可能性が担保される。食料安全保障を具現化する来年度の予算編成、食料・農業・農村基本計画づくりも本格化する。
自民党の森山裕・総合農林政策調査会最高顧問は、日本農業新聞のインタビューで「食料安全保障という理念を旗印に改正基本法を作り上げた。それは総裁が代わろうが不変のものだ」と語っている。
「岩盤規制改革」を成長戦略に位置づけ、農業・農協改革を推し進めた安倍政権、それを継承した管政権。「新自由主義からの転換」で軌道修正を図ろうとし頓挫した岸田首相。新総裁候補者が、農政の基軸をどう位置付けるのかも注目点だ。各候補者は食と農の未来図を示してほしい。