[論説]厚労省の農機安全対策 点検強化へ議論加速を
農道や圃場(ほじょう)からの転倒・転落で、死傷者が相次ぐ農機事故を防ごうと、農水省に加え、労働安全の視点から厚労省が動き出したことを評価したい。これまで厚労省は、法人などに雇用される労働者の安全を守る観点から政策を行ってきたが、家族経営の農家を含む個人事業者の保護へ、労働安全衛生法の改正に向けた議論を進めている。
特に事故が多発する農機は、専門家らによる検討会を2月に発足させ、先行して議論している。農機も同法の対象に位置付け①機械の構造②機械の使い方③講習・教育――について規制を設けるべきかを検討。今後、トラクターなどどんな機種を対象とするのか、事故の発生件数やリスクを踏まえて選定する。
座長を務める中央労働災害防止協会技術顧問の梅崎重夫氏は「米不足が社会問題となる中、食料安全保障の確保を考えれば、農機の安全対策は欠かせない」と強調する。
ただ、安全な農機の構造や性能については、国際規格に基づく農研機構による安全性検査制度が確立されており、厚労省が新たにどんな構造規制を導入しようとしているのか、はっきりしない。
欠かせないのは「今、現場で起きている農機事故をどう防ぐか」という視点だ。農機具の価格は上がり続け、農水省の農業物価指数(7月)は過去最高を記録。農畜産物の価格転嫁が進まない中で、安全に配慮された新型農機が発売されても、高額のため購入をためらう農家は多い。実際、農機の使用年数は長期化し、平均20年を超えている。
だからこそ、強化したいのが農機点検だ。フォークリフトやショベルローダーなどの建設機械は、月1回の「定期自主検査」が法律で義務付けられている。一方、最高時速35キロ未満の農機は農家の任意点検で、検査もない。不安全な農機が公道を走り、圃場で使われている可能性がある。
日本農業機械化協会の農機の使用実態調査(2020年度)によると、トラクターのブレーキの利きが悪いものや、左右の連結レバーが欠損しているものがそれぞれ5%あることが分かった。ブレーキの性能は安全に直結する。
農機の定期自主点検を義務付け、農業現場の安全を底上げしたい。点検を通してJAやメーカー担当者とのリスクコミュニケーションも生まれ、安全教育につながる。