[論説]子どもの不登校 農の居場所で安心感を
長い夏休みが明けて生活環境が変わり、大きなプレッシャーがかかったり、精神的に動揺したりしやすい子がいる。18歳以下の自殺は、この時期、特に増える傾向がある。警察庁・厚生労働省によると、2023年の小中高校生の自殺者は513人と、22年の514人に次いで過去2番目に多い。中でも夏休み明けの9月は54人、10月は最多の61人を占める。動機は、学業不振や進路に関する悩みなど学校に関する問題が多い。
国は、子ども1人に1台の端末を配布し「心の健康観察」の導入を全国の学校で進めている。心や体調の変化を把握し、早期発見につなげるためだ。スクールカウンセラーを配置するなど教育相談体制を強化し、自ら命を絶つことのない社会の実現を目指すが、子どもにとって学校が居心地よく、仲間との楽しい時間を過ごせる場所になるよう、子どもの「好き」を伸ばす教育が求められている。
東京都八王子市では、不登校の子どもたちに学校給食センターを開放し、給食を無料で提供している。各校に献立表付きの招待状を送り、給食のある日はいつでも受け入れる。調理室が見える部屋で、給食を作る栄養士と話しながら食べてもいいし、パーティションで仕切られた場所で食べてもいい。23年度は小中学生約60人に、延べ900食を提供した。
ただ、子どもたちが安心できる居場所は、家庭や学校だけではない。期待したいのはJAや青年部、農家などのサポートだ。JA東京青壮年組織協議会は本年度、13校約1000人の小中学生を対象に食農教育に取り組んだ。各地のJA青壮年部でも実施しており、不登校の子どもを支える環境は整っている。22年には、不登校の中学生に食農教育を行い、大田区の不登校特例校に通う生徒が世田谷区内の農園を訪れ、ミカンの収穫やレタスの定植をした。不登校の子どもたちが家から出て、畑に来る。それが農業と地域のつながりをつくる一歩となる。学校と協力し、継続した取り組みとしたい。
大人だけでなく、子どもも生きにくさを抱えている。学校側も教員の負担が増し、児童や生徒の心に十分、向き合うには限界もある。こうした時こそJA、農家の出番だ。食と農を核に、地域で子どもたちの心と体を温かく包み込む社会を目指したい。