[論説]与野党党首選が本格化 農業重視の政策で競え
日本農業新聞「農家の特報班」は両党党首選に合わせてアンケートを募り、農家やJA役職員、会社員や主婦ら126人が回答した。農政のどのようなテーマで議論を深めてもらいたいかを尋ねたところ、最も多かったのが「農家所得の確保・増大」だった。無作為抽出の世論調査ではないが、農家を含む国民の意見として注目したい。
所得の確保・増大の具体策として多かったのが、「生産コストの高騰を考慮した農畜産物の価格形成」「生産資材などの高騰対策」だった。米の価格は上がっているが、生産資材の高騰は長期化しており、現場の水稲農家からは「米価が安過ぎるので、やりがいがなくなる」、畜産農家からは「見合った所得があれば就農者も必然的に維持できる」との声が上がっている。
大規模・専業農家だけでなく「多様な担い手の確保」を求める意見もある。兼業農家が「どう次世代に引き継いで良いか分からない」と訴えるなど、先が見えない現状に困惑する声は少なくない。
農業現場が抱える課題は、食料安全保障の確保に大きな影響を与える。政府の施策の方向性を決める「次の首相」を選ぶ自民党総裁選、野党第1党として政府・与党と対峙(たいじ)するリーダーを選ぶ立民代表選の各立候補者は、農業政策を食料安保に直結する重要な課題として位置付け、重点的に議論すべきだ。
各党とも討論会が本格化し、農政でもさまざまな主張が展開されている。自民党総裁選は、農相を含む閣僚や党農林幹部経験者ら過去最多の9人が立候補し、米政策の在り方や食料安保の強化に向けた農業の構造転換などの提案が示されている。
立民代表選には4人が立候補した。民主党政権時代の首相経験者や現職と前職の党代表に加え当選1回の女性議員も名乗りを上げ、農業の戸別所得補償などにも言及する。
一方、農家所得の増大・確保をはじめ現場が直面する課題への対応策は、各党まだ踏み込みが足りない。農業予算の増額を含め、農政の議論をさらに深めてほしい。
党首選の後には、臨時国会での論戦や衆院選も見込まれる。各立候補者は、投票する党員や議員だけでなく、農政の選択肢を国民にアピールすることを視野に、生産現場が抱える課題の解決へ、全力を注いでほしい。