[論説]和牛の改良増殖目標 サシ偏重を見直す時だ
家畜改良増殖目標は牛、馬、メン羊、ヤギおよび豚について、能力、体形、頭数などに関する10年後の目標を、国として定めるもの。9月10日付で審議会に諮問され、新たな目標の検討が始まった。
現在の改良目標は2020年3月に公表。肉用牛については、牛肉の生産性を向上させるため、増体性や歩留まりなどの産肉能力や繁殖性の一層の改良を推進する。肉質に関する脂肪交雑の改良については向上ではなく、現在の水準を維持するとの方向性を打ち出していた。
15年に策定した目標でも「現状と同程度の脂肪交雑が入る種畜の作出を推進」、10年策定の目標でも「種畜の資質について、現状の脂肪交雑を維持」とした。
1991年の牛肉輸入自由化以降、輸入との違いを際立たせるため、和牛は肉質、特にサシの改良を進めてきた。だが近年は、必ずしもサシを増やす方向にはなかった。
ところが市場に出回る牛肉は、サシが増えている。十数年前まで肉質等級4以上の上物率は6割ほどだったが、近年は9割を超える。和牛肉に大量のサシが入っているのは当たり前の時代になった。
サシが増えれば肉に占める脂肪の量は多くなり、タンパク質の比率は落ちる。健康志向を受け、若者を中心に肉の脂肪離れがうかがえるが、それとは逆行する形だ。
帝国データバンクがまとめた今年上半期の報告では、焼き肉店の倒産は急増、過去最多ペースになった。3割超が赤字に陥り、倒産件数は前年同期の2・5倍に上った。物価高騰の影響もあり、高価な和牛肉が敬遠されているのではないかと懸念する。
現状ではサシの度合いが枝肉取引価格に大きく影響する以上、生産者がサシを追い求めるのは仕方がないことではある。そこは流通制度上の課題として別の議論が必要だ。
一方、牛肉中の不飽和脂肪酸の割合やアミノ酸組成など、和牛肉は食味面からも研究が進む。「おいしさ」の数値化・可視化もできる。おいしさを取引価格に反映させるのも夢ではないが、これも今後の流通制度上の課題だ。
家畜改良の面からサシ偏重にブレーキをかけるには、何ができるか。改良方向の検討を機会に、議論を深めるべきだ。改良増殖目標を検討する上で、従来より強いメッセージを打ち出してもらいたい。